建物はヤンゴンの遺産に登録されているそうだ
建物はヤンゴンの遺産に登録されているそうだ

 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第25回はミャンマーのヤンゴン中央駅から。

*  *  *

 これまでかなりの数の鉄道駅を利用してきた。しかし、これほどの見かけ倒し駅はないかもしれない。

 ミャンマーのヤンゴン中央駅である。首都はネピドーに移ったが、経済の中心は依然ヤンゴンである。日本に例えれば東京駅にあたるのだが、まあ、中身は限りなく薄い。

 この場所に駅を建てたのはイギリスである。しかしその後、日本軍が破壊。独立後の1954年、ミャンマースタイルの駅が建てられた。一見すると、3階建てに見えるが、2階以上はなにに使っているのかわからない。空き部屋がかなりあるようにみえる。

 建物の1階に切符売り場がひとつだけある。小さな窓口で、注意して探さないと通りすぎてしまうほどだ。そしてその窓口で買うことができるのは、当日の切符だけだ。

 翌日以降の切符売り場は、この建物の裏にある。跨線橋(こせんきょう)を渡った先。入り口は反対側の通りに面している平屋の建物だ。正面から歩くと、5分はかかる。そしてこの切符売り場は、午後3時までしか開いていない。

 民政化が進み、昨年(2016年)の総選挙で、アウン・サン・スーチーが率いる国民民主連盟(NLD)が政権与党になった。しかしミャンマー国鉄の公務員体質はまったく変わっていない。翌日以降の切符売り場の営業時間がのびているわけではない。

 僕はいま、ミャンマーの全鉄道路線に乗るという酔狂な旅をちょこちょこ続けている。その旅をはじめる前に、この駅に出向いた。夕方だった。翌日以降の切符売り場は閉まっているので、正面入り口の当日券を売る小さな窓口で聞いてみた。ミャンマーの路線は、列車が走っているのかわからない路線が多いのだ。

「あの……パコックから先のこの路線は列車が走っていますか?」

 路線図を指で示した。すると窓口のおじさん職員はこういった。

著者プロフィールを見る
下川裕治

下川裕治

下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(隔週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(隔週)、「タビノート」(毎月)など

下川裕治の記事一覧はこちら
次のページ