恩田陸(おんだ・りく)/1964年、宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞を受賞。17年『蜜蜂と遠雷』で直木賞、本屋大賞受賞。最新刊に『錆びた太陽』(撮影/堀内慶太郎)
恩田陸(おんだ・りく)/1964年、宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞を受賞。17年『蜜蜂と遠雷』で直木賞、本屋大賞受賞。最新刊に『錆びた太陽』(撮影/堀内慶太郎)

『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)で史上初の直木賞と本屋大賞のW受賞し、話題をさらった恩田陸(おんだ・りく)さん。実は恩田さんは、2005年に『夜のピクニック』(新潮社)で第2回本屋大賞を受賞しており、今回の受賞により同じ作家が本屋大賞を2度受賞するという快挙も成し遂げているのだ。

 史上初の偉業を2つも成し遂げた恩田さんとは、どんな作家なのだろう? まずは経歴に触れてみたい。

 1964年宮城県生まれの53歳。1992年、『六番目の小夜子』で作家デビューを果たして以来、精力的に作品を発表し続けている。デビュー作の『六番目の小夜子』や『夜のピクニック』『ネバーランド』『夢違』など映像化もされた作品も多数。デビュー25年目になる現在までに発表した作品は、エッセイも含めるとなんと64冊! 多作にして、多種多様なジャンルを手がける作家としても知られている。

 直木賞と本屋大賞をW受賞した『蜜蜂と遠雷』は、国際コンクールに出場する若き天才ピアニストたちの成長を描いた青春小説だが、たとえば、2006年に日本推理作家協会賞を受賞した『ユージニア』(KADOKAWA)は、未解決の毒殺事件を解き明かしていく傑作ミステリ。『三月は深き紅の淵を』(講談社)は1冊の本をめぐる小説で、いまでも週に4、5冊は本を読むという読書家としても有名な恩田さんならではの作風だ。また、怪談絵本『かがみのなか』、戯曲『と針』、エッセイ『恐怖の報酬日記』などからは、飛行機嫌いなのに、世界各地でビールを飲みまくる、お酒好きの恩田さんの素顔が垣間見える。

 同じ作家とは思えないほど、毎回、違ったジャンルの作品を発表しつつ、さまざまな文学賞を受賞しており、人気と実力を兼ね備えた作家といえる。6度目のノミネートでの直木賞受賞となったことでも、その実力の片鱗がうかがえるだろう。

 そんな恩田さんが満を持して送る、直木賞・本屋大賞受賞作『蜜蜂と遠雷』発表後の長編第一作となるのが『錆びた太陽』(朝日新聞社出版)だ。原発事故により国土の2割が放射能に汚染されてしまった日本が舞台の近未来SF。恩田さんらしく、前作とはガラリと印象が異なる作品だ。

 福島での原発事故を彷彿とさせる「最後の事故」後の世界を描きながら、筆致はじつに軽やかでコミカル。ロボットの名前が昭和のドラマを彷彿とさせたり、ゾンビが登場したり(!)と随所に笑いが散りばめられていて、『蜜蜂と遠雷』を書いた同じ作者とは一見、思えない。けれど、共通するのは日本語の美しさ、文章の読みやすさ。そして、単行本の造本の美しさだ。

『蜜蜂と遠雷』の単行本は、超有名ブックデザイナーの鈴木成一さんが手がけ、カバーを外すと、ピアノの黒鍵を彷彿とさせる、真っ黒な表紙が現れる繊細なデザインだったが、『錆びた太陽』も、同じように有名デザイナーの祖父江慎さんが手がけていて、帯に文字がなく、カバーに宣伝コピーが印刷された、書籍の常識を覆すような、挑戦的なブックデザインになっている。

 一躍時の人となった恩田陸さん。『蜂蜜と遠雷』しか読んでいない人は、ぜひ、他の作品にもトライして、単行本の造本までも、凝りに凝っているめくるめく恩田ワールドを体感して欲しい。(ライター・高倉優子)