3度目の五輪出場を目指すスマイルジャパンの守護神・藤本那菜(写真:Getty Images)
3度目の五輪出場を目指すスマイルジャパンの守護神・藤本那菜(写真:Getty Images)
アイスホッケー女子日本代表の藤本那菜(写真:Getty Images)
アイスホッケー女子日本代表の藤本那菜(写真:Getty Images)

 3月3日、ひな祭りの日に生まれた藤本那菜(チーム:ボルテックス札幌、所属:デンソー北海道)は、色白で口調もおっとりと柔らかい。大学院で心理学を修めており知的な雰囲気も漂う藤本は、アイスホッケー女子日本代表・スマイルジャパンのゴールキーパー(GK)を務める。身長163cmと決して大柄ではない彼女を街で見かけたら、世界トップレベルのアイスホッケープレーヤーだと見抜くのは難しいかもしれない。

【写真】アイスホッケー女子日本代表の藤本那菜

 藤本は自らを「運動神経が全然なくて」と評する。アクロバティックなセーブが魅力のGKも存在するが、藤本は基本に忠実であることを強みにしている。可憐な容姿の藤本だが、GKとしては地味なプレーが信条であり、それを支えているのは確かな技術なのだ。

 藤本が日本の守護神として真価を発揮したのは、ソチ五輪だった。開催国枠で初めて出場した長野大会以来、日本は五輪に出場することができていなかった。ソルトレークシティ五輪予選はあと1勝、トリノ五輪予選ではあと1点、バンクーバー五輪予選ではあと1勝で手が届かなかった五輪本大会は、女子日本代表にとり「夢の舞台」だった。そこへの道を初めて自力で切り開いたソチ五輪予選では控えだった藤本だが、本大会までの1年間トレーニングに励み、正GKとして本大会に臨むことになる。ソチ五輪では強豪相手に大健闘を見せるも、結果は5戦全敗。藤本は世界との差を痛感すると同時に「努力を続ければメダルを狙える位置にいける」とも感じていた。

 海外に目を向け始めた藤本は、ソチ五輪の翌シーズン、2015年の世界選手権でセーブ率93.75%を記録し、ベストGKに選ばれた。さらに新たに設立されたNWHL(北米女子プロアイスホッケーリーグ)ニューヨーク・リベターズのトライアウトに参加、契約に至る。昨季(2015-16シーズン)はレギュラーとしてプレー、オールスターゲームにも出場した。しかし今季、藤本は日本に戻る道を選ぶ。2月9日~12日、苫小牧で行われる平昌五輪最終予選のための決断だった。

 最終予選を「ダントツで勝つ」ことをスローガンに掲げてきたスマイルジャパン。そのための具体的な目標である「無失点」を達成するために、藤本の守りは不可欠だ。男子に較べてメジャーとは言い難い女子アイスホッケー。檜舞台である五輪への思いが強いのはどの国も同じで、最終予選では精神的にも過酷な戦いが予想される。心理学を学んだことで自分を客観視する力を身につけた藤本の安定感は、スマイルジャパンの大きな武器となるだろう。

 5戦全敗だったソチ五輪だが、そのうち3試合は1点差。スマイルジャパンが格上の相手とも見応えある試合を展開したのは、藤本の活躍があったからだ。あくまで基本に忠実に、静かに最後の砦を守る藤本。世界との差を埋めるために海外でも磨いてきた技術が、スマイルジャパンを3度目の五輪に導く。(文・沢田聡子)