一方、Pitch18は三つのローラーをYの字型に配置し、中央から球を発射する仕組みだ。このローラー、一見すると大きなチェダーチーズのような形。球に当たる面はふくらみを帯びており、球の縫い目の影響を最小限に抑える効果がある。人工知能によって三つのローラーが動く速度や角度などを繊細にコントロールし、球に加わる力を変えている。これによって精度が高い球を連続して投げることができる。

 制球力抜群、スタミナも十分のPitch18。2012年春の完成以来、甲子園で春夏通算5度の全国制覇を果たした大阪桐蔭をはじめ、地元・石川の遊学館など高校、大学、社会人チームや球場など20か所で導入されている。ちなみに、値段は400万円。モニター販売として納品し、集積したデータは次世代機の開発に生かされるという。

 西野製作所の創業は1949年で、現社長は二代目となる。67年間、工作機械や産業機械の設計・資材・加工、組み立て・品質保証と全工程を手掛けてきた。高い精度が要求される超精密工作機械の生産では、「キサゲ」という工具を使って人の手で表面を滑らかに仕上げ、数ミクロンの狂いも許さぬ精度の高い製品を完成させている。

 ピッチングマシンの開発は、金沢大学の尾田十八名誉教授による人工知能に関する研究を知った西野社長が、「実用化を、ぜひうちで」と申し出たことがきっかけ。長年培ってきた機械製造の技術力とスポーツ愛を注いで完成したのがPitch18なのである。

 近年、Pitch18はスポーツバラエティー番組への“出演”も相次ぎ、東尾修のシュート、江川卓のカーブ、伊藤智仁のスライダー、桑田真澄のカーブなど伝説の投手の魔球を再現し、プロ野球の現役スラッガーとの勝負が話題を集めている。メジャーリーガーの球を再現することも可能であり、打者・大谷の協力が得られれば、Pitch18が再現した投手・大谷との対戦も夢ではない。

 帰り際、西野社長は「工場の周りには200本の桜が植えられている。桜が好きなんですよ」と教えてくれた。日照時間が少なく、降雪地でもある北陸の球春は遅い。石川の球児にとっては練習時間の短縮や効率化が課題である。「Pitch18で練習した選手から『プロ入りできた』『甲子園に行くことができた』という声を聞きたい。特に地元の高校に頑張ってほしいですね」と西野社長。Pitch18が抱く夢は、石川が生んだメジャーリーガー・松井秀喜を超えるスラッガーの誕生と、石川の高校による甲子園での初優勝らしい。(ライター・若林朋子)