広川徹先生(撮影/写真部・工藤隆太郎)
広川徹先生(撮影/写真部・工藤隆太郎)
医療トピックス8分類(『医学部がわかる』より)
医療トピックス8分類(『医学部がわかる』より)

 偏差値だけでは測れない「医師にふさわしい資質」を見るため、多くの医学部入試で「面接」と「小論文」が課されている。この最終関門の結果次第で不合格になることも。『医学部がわかる』(AERAムック)では、受験生の弱点を熟知する河合塾の専任講師・広川徹先生に「特効薬」を処方してもらった。

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 受験生ひとりひとりを面接し、小論文を採点するのは大変な労力ですが、それでも多くの医学部入試で実施されているのは、大学側が「医師にふさわしい資質」の有無を非常に重要視しているからです。

 医療ミスの増加などにより、医療界に対する社会の目は厳しくなっています。医学部に入るということは、ほぼ将来医師になることを意味するので、受験生は志望する時点で、医師になる責任感や自覚、資質を持っていることが期待されており、大学側は面接や小論文で、それを見極めようとしているのです。

 もちろん、センター試験や一般入試で一定水準以上の成績を取ることは必須ですが、面接や小論文で医師の適性・資質に欠けていると判断されれば、合格できません。受験生は面接と小論文を軽視しがちですが、おまけではなく、これが「最終試験」なのです。

 医師にふさわしい資質とは、簡単に言うと「ヒューマニティー=人間的力」と「インテリジェンス=知的能力」があるかどうかです。

 ヒューマニティーとは、「医師に必要なバランスのとれた人格」を意味します。特に臨床では、年齢や性別の異なる患者と円滑にコミュニケーションを取り、看護師や薬剤師といった立場の異なるスタッフとチームを組むため、人間に対する深い理解が必須です。また、自分の興味・関心だけで医療行為を行い、医療ミスを隠蔽(いんぺい)するようなことがないよう、社会的責任に対する自覚が求められます。

 インテリジェンスは、「医師を職業とする自覚と責任感」のことです。医療に関する知識や問題に関心があり、論理的に物事を理解・思考・発信できるかが試されます。面接と小論文は、医師としての適性や資質を人間的力と知的能力に分別し、選別する役割を担っているのです。

 医学部入試の面接と小論文は、医療にかかわるテーマだけでなく、生命科学や自然科学に関するもの、人間の心情に分け入る人文系のテーマなど、出題範囲は多岐にわたります。なかでも再生医療や、出生前診断など生殖医療に関わる問題、感染症の脅威、高齢者に対する終末期医療のあり方などは、近年大きな注目を集めています。

 幅広い分野について体系的な知識を身につけるのは大変なことですが、医師を志望しているにもかかわらず知らないというのでは、やる気や自覚を疑われても仕方がありません。また、いいかげんな知識で答え、あやふやな点を突いた質問を重ねられたら致命的です。

 インテリジェンスは一朝一夕で身につくものではありません。新聞はできれば毎日、目を通し、医療記事については自分なりの意見を述べられるようにしましょう。より深い知識を得るためには、『Nature』や『サイエンス』といった医学雑誌・科学雑誌を読むのも有効です。

 医療トピックスやニュースについて調べる際には、(1)正確な事実関係、(2)問題の背景、(3)原因の分析(問題の所在)、(4)対策、などについて体系的に回答できるよう備えたいですね。情報をインプットできたら、志望校の過去問などからテーマを見つけ、小論文を月に1本は書くようにすると、実践力が養えます。

 医学部の面接や小論文では、延命治療や出生前診断など、是非のつけにくい出題が多々あります。また、「技術は一流だが金もうけ主義の医者と、技術は未熟だが思いやりのある医者のどちらがよいと思うか」といった、どちらも選びにくい質問をされることも。大学側はあえて答えにくい問題を提起することで、問題に向き合う受験生の姿勢を試しているのです。想定外の出題があると焦るとは思いますが、臨機応変に落ち着いて、自分なりの考えを答えたいですね。

(構成・岡野彩子)

※AERA Premium『医学部がわかる』(AERAムック)より

広川 徹(ひろかわ・とおる)
河合塾小論文科専任講師。医学系小論文の中心講師として、長年にわたり医学部進学指導の最前線に立つ。医・自然科学系小論文のテキストや「全統論文模試」などの作成チーフとして活躍。医療に関する知識を体系化し、効果的に表現する授業は、塾生からの信頼も厚い