先制点は36分、左サイドで中村健人と山大輝が素早いパス交換から中央の藤川虎太朗に展開。藤川はシュートも選択できたはずだが、さらに右サイドをフリーで攻め上がってきた三宅海斗にパス。これを三宅がワンタッチ・シュートでGK平田周の脇下を抜いた。

 東福岡の強さは攻守の切り替えの速さだけではない。1対1のボールの奪い合い、ハリルホジッチ監督が言う“デュエル”でもフィジカルの強さをいかんなく発揮した。47分には、FKのトリックプレーから中村が追加点を奪うと、その後も前線からの厳しい守備で国学院久我山に攻撃の形を作らせない。

 相手の速くて厳しいプレスに国学院久我山はパスの出しどころがなくて躊躇したり、無理して出したパスは東福岡の守備網に引っかかったりしてカウンターのピンチを招いた。それでも国学院久我山は自分たちのスタイルを貫き、プレーメーカーの名倉巧や1トップの渋谷雅也の頑張りから何度か東福岡ゴールに迫った。

 ただ、攻撃に時間のかかる分、東福岡ゴール前には分厚い“赤い壁”があり、シュートはFP(フィールドプレーヤー)のブロックやU-18日本代表GK脇野敦至に阻まれ、ゴールを奪うことはできなかった。

 終わってみれば今大会は、3回戦で激突した東福岡と市立船橋の試合(0-0からPK戦で東福岡が勝利)が事実上の決勝戦だったと言える。ただ、大敗したとはいえ、国学院久我山の躍進は東京勢に希望をもたらしたのではないだろうか。

 Jリーグ誕生後、かつての名門都県は優秀な選手のJクラブへの流出によって地盤沈下がささやかれて久しい。今大会もサッカー界の“御三家”と言われた広島、静岡、埼玉の代表校は1回戦で姿を消した。そんななか、東京勢も1998年に帝京が東福岡に敗れて以来、17大会ぶりに決勝に進出した。

 24大会ぶりとなる東京都代表の優勝はならなかったが、国学院久我山の躍進は優勝の可能性を示すと同時に、どの地域の代表の、どんなサッカースタイルにもチャンスがあることを教えた、意義ある大会だったと思う。高校選手権にはここ10年近く、連覇したチームはない。それだけ地域のレベルが上がっている証拠でもあるだろう。

(サッカージャーナリスト・六川亨)