ヘディングシュートを決めて喜ぶ澤穂希(撮影・六川則夫)
ヘディングシュートを決めて喜ぶ澤穂希(撮影・六川則夫)

 女子サッカーの日本一を決める、第37回皇后杯全日本選手権の決勝が12月27日に行われ、INAC神戸レオネッサが澤穂希のゴールで、アルビレックス新潟レディースを1-0で下し、2年ぶり5回目の優勝を果たした。

 12月17日、突然の現役引退を発表した澤。皇后杯は残り3試合だったが、一発勝負のトーナメントのため、負ければ即引退という状況だった。しかし、準々決勝でASエルフェン埼玉、準決勝ではベガルタ仙台レディースをともに2-0で下し、決勝の舞台へとたどりついた。

 女子サッカー界を長年にわたってリードしてきた澤の勇姿を見ようと、等々力競技場には2万人を超える観衆が集まった。日本の女子サッカー史上、最多となる大観衆だ。

 試合は新潟の健闘もあり、一進一退の白熱した攻防が続き、両チームともなかなか決定機を作れない。延長戦突入の気配が漂い出した78分、ついに均衡が破れた。川澄の右CKに澤がドンピシャのタイミングでヘディングシュートを突き刺した。

 37歳のベテランながら、空中戦の強さが発揮された得点だった。このシーン以外にも、澤は48分と49分にCKからのヘッドで相手ゴールを脅かした。相手FKの時に自陣ゴール前でクロスをはね返すことの多いのも澤の持ち味だ。

 ボールが飛んで来るコースと落下点を瞬時に読む、空間把握能力にたけているからこそできるプレーだろう。INAC神戸の松田監督は「ボールがどこに来るのか予測が優れているし、無意識に動き出せる」と澤の能力を称賛していた。

 澤のゴールは4月26日のASエルフェン埼玉戦以来8カ月ぶり。準決勝後、「結婚してから点を取っていない」と不満を口にしていたが、決勝で「得点を狙っていた」との言葉通り、ゴールを決めてしまうあたり、やはりW杯の得点王とMVPは“格”が違うということだろう。

 松田監督は「苦しい時には澤」と女子サッカーのパイオニアを表現したが、それはなでしこジャパンにも当てはまる。その澤が今日限りでユニホームを脱いだ。それは一つの時代が終わった瞬間でもあった。(サッカージャーナリスト・六川亨)