しかし、これからの実質賃金を見るうえで留意しなければならないのは、「前年同月比の増減率」ではなく、アベノミクスが始まった「2013年以降の推移そのもの」であるということです。今後の実質賃金の水準が2012年の水準にまで戻っていくかどうかに、私たちは注意を払わなければならないのです。

指数の推移そのものを冷静に見ていかなければ、政府の大本営発表にまんまとだまされてしまいかねないのです。なぜなら、2015年後半から2016年にかけては、円安インフレのマイナス効果が剥げ落ちていくので、単月では前年同月比でプラスになる月も出てくるようになるからです。2013年~2014年の2年間における実質賃金の下落率は、リーマン・ショック期に匹敵するというのに、どうして景気が良くなっているといえるのでしょうか。

さらにつけ加えると、実質賃金を算出する際に必要なデータである名目賃金の調査では、従業員5人未満の事業所は調査の対象となっていません。わかりやすく言うと、格差拡大の影響が最も色濃く出るはずの零細企業の実態が、賃金の調査には反映されていないのです。その意味では、実質賃金にしても名目賃金にしても、数字が示しているよりも実態は悪いと考えるのが自然ではないでしょうか。

それを証明するかのように、最新の厚生労働省の国民生活基礎調査では、生活が「大変苦しい」が29.7%、「やや苦しい」が32.7%にも達し、両方の合計である「苦しい」が62.4%と過去最高を更新してきています。これが、現政権が行ってきた経済政策の結果であり、国民生活の実態であると、私たちはしっかりと認識しておく必要があるでしょう。