祖父は、元々軍人で、戦前は偉い立場にもなった。

 でも、戦争に負けて、孫の世話だけが生き甲斐になっていた。

 それ以外は、本を読んで過ごしていた。

 孫には優しかったものの、頑固で、人の話を聞かず友達もいなかった。たまに話をしても、人の批判も多かった。

 祖父には、コミュニティーがなかった。

 一方、祖母は、戦争で負けたのを機会に働き出した。

「働くって、あんなに楽しいものだと思わなかった」

 と、いつまでたっても、昔の職場の仲間と交流を持っていた。

 それだけでなく、老人会にも入り、旅行の会にも入り、詩吟にお花になんでも楽しんでいた。誰とも楽しんで、ほとんど人の悪口を言うこともなかった。

 それどころか、孫のわたしがお芝居や歌舞伎を誘うと、わたしの友人たちにくっついて遊びにきた。

 口癖は、「楽しかった」。

 いつもごきげんだから、わたしたちもとっても誘いやすい。

 そのうえ、誰からもよく誘われていた。

「ごきげんに行くところがいっぱいあったから、ボケなかったのかなあ?」

 ふと、そんなことを思った。

 そう思って、わたしの周囲の年配の社長や会長を見てみた。

 みんなボケずに、元気にしている。70歳後半の社長のひとりが言った。

「だいたい、3つ以上の会に属している人は、みんな認知症にならないよ。だって、わしの周囲がみんなそうだから」

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