「自衛隊も役所だ。2佐や3佐といった幹部はペーパーワークに忙殺される。下士官でも40過ぎの曹長や1曹なら部下指導や書類作成もある。定時に帰れないこともしばしばだ。でも40過ぎで2曹なら階級も低いので任される仕事も責任がない。さぞ楽だろうよ」(海自厚木航空基地・1曹)

 ちなみにこの1曹の同期の2曹は、昇任すると仕事の責任が重くなること嫌い、意図的に“昇任調整”を行い、星が乗らないよう――階級が上がらないように自らのキャリアプランを練りに練っている。その目的は家庭生活の充実と趣味の車いじりへの時間が惜しいからだそうだ。

 仕事は腹八分目、遊びは目いっぱい。責任はできるだけ回避。そんなあしき意味での“公務員化”した自衛官たちにとって集団的自衛権行使容認の動きは、「何か仕事が増えそうで嫌だな」(情報本部・1曹)というのが正直なところだ。

 ましてや集団的自衛権行使の容認で、異国のために戦に赴くことなど、「本当にそんなことが起こっても出動命令が自分にくるのかどうか。もし行けといわれれば仕事なので行く。でも、できれば子どもが小さいうちは勘弁してもらいたい」(陸自第3師団・3曹)とどこか臨場感のない遠い世界の話として捉えている節がある。

「政治家やマスコミの人は大きなことをいう。でも現場の下士官クラスはそんな話に興味はない。第一わからない。俺たちは職人だから」(空自芦屋基地・1曹)

 自衛隊の下士官は専門職だ。平時、有事問わず、常に与えられた職種のなかでベストを尽くすことを考える。大上段に構えた政治や世間の動きなど興味を持つことを憚られる雰囲気がある。もし部隊で下士官以下の階級の隊員が、「集団的自衛権について自分はこう考える……」などと話そうものなら部隊でにらみを利かすベテラン高級下士官から、「くだらないこと言ってないでさっさと仕事を覚えろ」とどやされるのがオチだ。そんな話をする下士官は部隊では浮いてしまうという。下士官のみならず幹部でも同様の傾向がみられる。

 「自衛官とは命令が下れば戦地でも被災地でもどこでも行きます。はい。喜んで……とは、ちょっと言えませんが。でも仕事ですから」(航空幕僚監部・1佐)

 “軍隊ではない軍隊”自衛隊では、今、サイパ、すなわち災害派遣への参加が自衛隊員にとっての“武勲”となっている。だがこれは「自衛隊広報やマスコミが作った虚像」(防衛大学校・曹長)だという。

「誰だって毎日定時にお家に帰りたいですよ。サイパもそう。“戦功”にして褒めそやさなけば誰も行きやしません。集団的自衛権行使による海外派遣もそう。日頃から激務なのでもうこれ以上の活動拡大は正直きついです」(海自横須賀地方隊・2尉)

 さて、先月、朝日新聞が行った自衛隊の海外活動拡大に関する世論調査では、反対が52%と、賛成の33%を大きく上回った。

 実際に“戦地”に赴くのは自衛官にとってこの世論調査の結果こそ、いみじくも自衛官たちの心情を正しく反映していると思えるのは気のせいだろうか。

(フリーランス・ライター 秋山謙一郎)