どうすれば小泉今日子のように、齢とともに魅力を増していけるのか―― その秘密を知ることは、現代を生きる私たちにとって大きな意味があるはず。

 日本文学研究者である助川幸逸郎氏が、現代社会における“小泉今日子”の存在を分析し、今の時代を生きる我々がいかにして“小泉今日子”的に生きるべきかを考察する。

小泉今日子が“女の子”に支持された理由(上)よりつづく

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 幼少時に愛情にめぐまれなかったため精神的不安定で、心の空洞を埋めようと、必死になって男性を求める――こうしたタイプの女性は、ターゲットとして定めた男性を高い確率で射止めます。芸能人になった場合、男性からの人気は抜群といった感じになります。このタイプの女性に接すると、ほとんどの男性は

「おれがこの子を何とかしてやらないと」

 という気になって、心を奪われてしまうのです。もっとも、こういう女性の愛情飢餓は底なしですから、ひとりの男性に愛されることで、心が満たされることは滅多にありません。心の渇きを抱えたまま、次々に男性遍歴を重ねるという恋愛パターンが、このタイプの女性にはしばしば見うけられます。

 マリリン・モンローは、まさしくそういう女性でした。モンローは、不幸な幼少期を送り、そのために背負いこんだ精神の不安定さを、男性の愛情と薬物で鎮めようとしました。メジャーリーグの花形プレーヤーだったジョー・ディマジオや、二十世紀を代表する劇作家のアーサー・ミラーなど、時代を代表するセレブと次々に結婚。ジョン・F・ケネディ大統領とその弟のロバート・ケネディ上院議員とも愛人関係にあったと言われています。それほどの男たちの愛情をあつめても、彼女は幸福になれませんでした。

 女優としてのモンローは、歴史に残るセックス・シンボルです。その体つきはたしかにグラマラスでしたが、そのことを褒めたたえる男性のモンローファンには、意外とお目にかかりません。女優モンローを支持する男性は、彼女の純粋さ、かわいそうさを好んで語ります(注1)。モンローはスクリーンの上でも、男性の「おれが何とかしてやらないと」という意識に訴えかけていたわけです」

 小泉今日子の同期の女性アイドルでは、中森明菜がまさにモンロータイプといえます。松本伊代も、薄幸な感じはありませんが、シッカリ者とは対極のあやうげなキャラクターが人気のもとでした。松本伊代ファンの中に、「おれが何とかしてやらないと」という思いにそそられていた男性が大勢いたことは、想像に難くありません。

 小泉今日子は、男性の「おれが何とかしてやらないと」という気持ちを、今も昔も、あまりかき立てません。断髪してから、元気でイケイケという感じでふるまうことが多かったせいもありますが、問題はもっと彼女の本質的な部分にかかわります。

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