“人間より牛の方が多い”岩手・葛巻町 「天と地」のエネルギー政策は浸透するか? 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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“人間より牛の方が多い”岩手・葛巻町 「天と地」のエネルギー政策は浸透するか?

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「森と風のがっこう」は、旧・小屋瀬小中学校上外川分校を再利用している

「森と風のがっこう」は、旧・小屋瀬小中学校上外川分校を再利用している

太陽光発電の仕組みを説明する、「森と風のがっこう」吉成信夫代表

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参加者の前で歌うつじあやのさん

参加者の前で歌うつじあやのさん

12基の風車を有する「グリーンパワーくずまき風力発電所」

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バイオガスプラントを解説する町役場の本宮隆良さん。学生時代は箱根駅伝を走り優勝したのだとか

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「くずまき高原牧場」には、ソーラーパネルも設置されていた

「くずまき高原牧場」には、ソーラーパネルも設置されていた

 岩手県葛巻(くずまき)町。県庁所在地・盛岡市と昨年大ヒットしたドラマ『あまちゃん』の舞台となった久慈市の中間に位置する、山間の静かな町だ。標高1,000メートル級の山々に囲まれた同町の自然環境を生かし、酪農と林業を主産業としている。町の広さは横浜市とほぼ同じ約435平方kmだが、人口は370万人の横浜市に対しわずか7千人しかいない。

 10月25日、そんな町にウクレレの弾き語りで知られるシンガーソングライターのつじあやのさんが訪れた。町内の廃校舎を再利用した施設「森と風のがっこう」で、アコースティックライブ「ひかり照らす森の音楽会」を行うためだ。 山間の廃校の校舎裏 に急遽、用意された小さなステージ。陽が落ち、あたりが暗闇に包まれた夜、 ステージを照らすのは必要最低限の照明のみ。しかも、この照明の電力は日中に太陽光発電で作られたものだという。つじさんはそのステージに上がり、完全なアンプラグド(マイクもアンプも使用しない生声とウクレレのみ)で自身のヒット曲を歌い上げた。優しいつじさんの歌声と温かみのある「ひかり」がマッチし、訪れた観客の心を癒した。

 実は、葛巻町は酪農と林業のほかに、再生可能エネルギーにも力を入れている。今から15年前の1999年、同町は「葛巻町新エネルギービジョン」を策定。掲げたキャッチフレーズは「天と地と人のめぐみを生かして」だ。「天」は風力や太陽光、「地」は畜産糞尿を活かしたバイオマスや水力のエネルギーを指し、そこに風土・文化を守り育てる「人」が生活することを意味している。

 今回のつじさんのライブは、そんな葛巻町に注目した雑誌『ソトコト』が企画したもの。同企画は、葛巻町の再生可能エネルギー施設を見学するツアー付きで、1泊2日かけて行われた。初日はツアー参加者全員で、ライブの前に開催場所となった「森と風のがっこう」の施設視察も実施。なお、「森と風のがっこう」とは、地域に根ざした自然エネルギーを利用しつつ“身の丈”にあった循環型のライフスタイルや、農産物の地産地消を実施しているエコスクールのことだ。普段から、小学生などを対象にした自然体験プログラムを実施しており、今回のイベント参加者も同施設の電力をまかなうソーラーパネルや、糞と尿をわけることで臭いがほとんど発生しないコンポストトイレなど、循環型の生活を追求する様々な設備を見学した。

 葛巻町内には「森と風のがっこう」以外にも、再生可能エネルギーに関する施設・設備が各所に点在している。 99年、同町袖山地区に建設された「エコ・ワールドくずまき風力発電所」もそのひとつ。風車の数は3基、出力が延べ1200kwと大規模ではないが、森林と牧草地帯の間を行く山道と、そこで牛が飼育される牧歌的な光景から、ツーリングを楽しむライダーを中心に観光スポットとして人気を集めている。

 同町上外川(かみそでがわ)地区にあるJ-POWER(電源開発株式会社)が建設した「グリーンパワーくずまき風力発電所」は、12基の風車を設けた本格的な発電所だ。標高1000m以上の高地に吹く風を活用し、出力は2万1000kw。年間予想発電量の5400万kwhは葛巻町の年間消費電力量の約1.5倍に相当する。風車の増設も検討しており、現在、そのための調査も進められている。

 また風力だけでなく、バイオマス発電の取り組みも。同町は「人間よりも牛の数の方が多い」と言われるほど畜産の盛んな土地柄であり、1日約400tもの家畜排泄物が発生、排出される家畜糞尿を活用したモデル施設「畜ふんバイオマスシステム」を「くずまき高原牧場」内に建設した。もっとも、プラント導入には2億円以上の初期投資が必要となるため、各酪農家への導入には至っていない。現在、同町は酪農基盤の安定を目的とした「新葛巻型酪農構想」を検討中で、バイオマスプラントについては酪農家をグループに分けるなど、導入を促進する方法を模索しているという。

 こうした様々な取り組みの結果、葛巻町の再生可能エネルギーは確実に成長し、今や電力自給率は160%にも上るという。もちろん規模の小さい町だから可能な「好成績」であろう。しかし、都会に住む人にとっても“葛巻スタイル”には、多いに学ぶこともあるのではないか。電力の安定供給やコスト面など課題も多い再生可能エネルギーの普及だが、理想を掲げつつ、それを少しずつ無理なく実現していくことを模索している同町の取組み。今後とも注目していきたい。


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