髪形はリーゼント、服装は白いスーツに赤いタオル…歌手の矢沢永吉をまねたスタイル。古都・京都を疾走する奇抜なタクシー運転手がいる。京都の人々は、彼が運転するタクシーを「永ちゃんタクシー」と呼んでいる。

 京都府に住む

自慢の愛車「クライスラー300C」と大鐘孝夫さん
自慢の愛車「クライスラー300C」と大鐘孝夫さん
矢沢のタオルはいつも忘れない…
矢沢のタオルはいつも忘れない…

大鐘孝夫さん(68)は2001年から「EIKICHI taxi」を運行している。到底タクシーに見えない、高級車「クライスラー300C」を運転し、車内では、矢沢のDVDを流して、矢沢の物まねをするなど、独特なおもてなしを行っている。

 なぜ、こんなことを始めたのだろうか。彼は、もともとトラックの運転手だった。しかし、1994年に関西国際空港が開港したことで、仕事が激減して退職に追い込まれた。

 その後、ホテルと主要な駅を結ぶシャトルバスの運転手に転身したが、仕事に飽きてしまった。その時、大鐘さんはすでに50歳を超えており、再就職先が見つからず、やむをえずタクシー会社で働くことになった。

「こんなに楽しい仕事があったんや」

 まさに、彼にとってタクシー運転手は天職だった。やりがいを見いだし、仕事にのめり込んだ。3年間、タクシー会社で勤務した後、個人タクシー事業者として念願の独立を果たす。

「かっこええのに乗りたい」という気持ちでクライスラー300Cを購入。車内も約40万円をかけて、矢沢のDVDが流せるように改造した。そもそも矢沢ファンになったのは20代後半だった。一番好きな曲は「BELIEVE IN ME」だという。

「矢沢さんの張りのある歌声に魅了されたんや。もちろん、彼のその生き方にも影響を受けたんよ。よくね、人から聞かれるのは、こんな車で走ってたら、燃費が悪いでしょって。そんなもん、月5万円ぐらいのガソリン代が7~10万円になるだけでのことやん。ええかっこするには金がかかんねん。お金もうけをしようと思ったら、普通のタクシーに乗る方がええと思うよ(笑い)」

 なんという、矢沢も驚くような男前な発言……高級車に乗っているからもうかっていると思いきや、収入はタクシー会社で働いていた時代と大差がないらしい。また、身だしなみも人一倍気を使っている。洋服は、オーダーメードで仕立てることもあるそうだ。

 お客さんは矢沢ファンに限らず、せっかくの京都に旅行に来たならば、EIKICHI taxi に乗りたい! という人のハートもガッチリつかんでいる。

 現在は奥さんと二人暮らし。奥さんも彼の生き方に理解を示しているそうだ。

「もしかしたら半分諦めかもしれへんけどな」と、笑いながら大鐘さんは続けてこう言った。

「75歳で退職やから、今の仕事も少しずつ減らしながら、いつかは居酒屋でもやりたいと思うわ。でっかいテレビ置いて、流すのはやっぱり矢沢のDVDやで」

 さすが生粋の矢沢ファン。その人生にブレはない。