床の演技で会場を大いに沸かせた白井(撮影/赤坂直人)
床の演技で会場を大いに沸かせた白井(撮影/赤坂直人)
インターハイで初の全国大会・個人総合優勝を飾った谷川(撮影/赤坂直人)
インターハイで初の全国大会・個人総合優勝を飾った谷川(撮影/赤坂直人)

 8月2日から4日にかけて、東京の代々木第一体育館で開かれた体操の全国高校総体。個人総合では谷川航(市立船橋高・3年)が、世界選手権出場経験のある白井健三(岸根高・3年)を抑えて初優勝を飾った。白井は準優勝だった。

準優勝にとどまったものの、白井は得意種目の床で16.7という驚異的な高得点を叩き出し、種目別優勝を飾っている。白井は今大会を振り返り、「攻めた演技ができた」「自分の力は出せた」とやりきった表情を見せた。

一方で印象的だったのが、そんな白井の谷川を絶賛する言葉の数々だ。

「技の正確さが足りなくて、航に負けていたと思う」

「結果については、航が強かったと思うしかないな、と。今日(の彼の演技に)は何をやっても勝てなかったと思う」

 五輪での活躍が嘱望される白井が絶賛する谷川とは、いったいどんな選手なのだろうか。

 谷川が所属している市立船橋高校は、ここ数年体操でも実績を上げてきており、今大会も団体優勝を果たしている。白井が床のスペシャリストであるなら、谷川はオールラウンダー。すべての種目でまんべんなく、高いパフォーマンスを披露することに定評がある。

 実は今大会、谷川は種目別では鉄棒では3位、その他の種目においては全て2位だった。得意種目の床では15.6点というかなりの高得点を叩き出したが、白井の驚異的な得点のためにトップに立つことができなかったのだ。しかし一方で、自身が苦手だと話す鉄棒でも、3回もの離れ技を完璧に決めて3位。得手不得手にかかわらず、平均してクオリティの高い演技を行う能力のある、稀有な選手だ。

昨年も2年生でインターハイ準優勝につけており、今大会の優勝候補でもあった。そんな彼の演技の最大の特徴は、その着地における精度の高さだ。

 床を筆頭にほぼすべての種目で、微動だにしなほどにピタリと着地を決めてみせる。それは白井がの「試合で航が着地を全て止めにいっていたので、自分もやらなきゃダメだなと思った」という言葉からもわかるように、周囲にプレッシャーを与えるほどのものだ。

「着地が止まらないと、演技がしまらないと感じる。演技の中では一番わかりやすい減点なので。止まると観ている人も気持ちいいんじゃないかと」(谷川)

 体操では1歩程度のズレならば着地を決めたといっていいレベルのものだのだが、谷川はそこに関して全く妥協がない。特に床の着地は圧巻で、世界的に見ても、あれだけゆるぎない着地をみせる選手は稀だ。

 今大会では白井が谷川を絶賛していたが、そうした思いは彼もまた同じようだ。

「ライバルがいなかったら、自分も満足してしまって伸びていかなかったと思う。見えないところで相手も頑張っているんだというのを想像して、自分も練習しています」

 才能に恵まれながら、努力を怠らない二人。才能ある彼らが切磋琢磨し続ければ、東京五輪ではきっと日本にメダルをもたらしてくれるはずだ。

(文・横田泉)