●「付加価値」を高価格と間違えてはいけない

山口 先ほどのお話からすると、80年代から社内では「ブランド」を強くするという概念が明確にあったわけですね。

安藤 もちろんです。当社では、付加価値をどうすれば高められるのかを、ブランドごとに考え続けています。お客さまに「高付加価値」と認めていただいたからこそ、「日清のどん兵衛」や「日清焼そばU.F.O.」も40年以上にわたるロングセラーブランドになったのだと考えています。

山口 海外で伸びている印象は強いですけど、国内でも伸び続けているのがすごい。国内市場は、高齢化も進み、胃袋の総需要のメガトレンドは弱含みですし、なにより国内大手の小売は低価格なPBの棚を強化している印象もあり、決して市場環境が特段良いように見えません。

安藤 国内市場でも伸び続けています。胃袋が減少する中、国内総需要は4年連続で過去最高を更新していますし、特に2018年度は「チキンラーメン」ブランドが発売60年目にして過去最高売上を更新しました。

山口 商品としては定番のコモディティと言えるカテゴリで、それこそ飽きられてもおかしくないロングセラーブランドですが、ものすごく巧みに話題化する広告プロモーションで、売上数字を伸ばせるというのは驚きです。実際に他社のマーケターとの会話でも「日清食品は、あそこまでやりきれるのがすごい」という話がよく出てきます。

安藤 ただし、無茶なマーケティングをしてますから、役員会ではよく怒られてますけどね(笑)。

山口 それは内容に対してですか?それとも金額ですか?

安藤 内容です。広告宣伝費の総額は、ここ10年ぐらい変わっていませんが、今はどれだけネットでも話題にしてもらえるかが勝負の時代です。当社の場合、今もテレビが宣伝の基軸ですが、テレビCMをSNSで拡散させることができれば、CMのオンエア回数が少なくても、従来以上の広がりが期待できます。ただ、そのためには「チキンラーメン」のひよこちゃんが悪魔に変身するような、インパクトのある尖った内容のものが多くなるので、役員会だけでなく、お客さまからも「子どもが泣くからやめてくれ」といったお声をいただきました(笑)。

山口 かわいいひよこちゃんが、いきなりキレキャラになったときは、twitterのアカウントを乗っ取られたのか等、すごい話題になりましたね。

安藤 「チキンラーメン」を大事に育ててきた先輩役員からすると、「どこまでやるんだ」と心配になるのも無理ないですよね。「ひよこちゃんが暴れるのは今回だけですから」と頭を下げてOKをもらったんですが、近々もう一回変身させるつもりなので、また怒られますね(笑)。

●「らしさ」やスピード感を体で覚える爆笑連続の会議

山口 6-7年前にインタビューさせていただいた時、SNSでの存在感の薄さに危機感を覚えておられた真っ最中で、デジタルでの存在感を上げることが急務だ、とおっしゃっていたのを覚えています。そこから試行錯誤の末、手ごたえを感じるところまで到達されましたね。

安藤 SNSマーケティングについては、日本でも最先端を走っていると自負しています。ブランドコミュニケーションについては、週1回、宣伝部と定例の会議を開催しています。会議の場はすべてオープンですから、他部署の人間も自由に参加して議論に加わる。いつも30-40人は参加していますね。

次のページ
「おバカ」を支えるのは、シビアなPDCAの仕組み