●首都圏であっても私鉄路線は自社広告だらけのケースも

 実は広告媒体としての価値低下は、放っておいても買い手が付く山手線や地下鉄よりも、広告主が出稿するかしないか迷うような、中堅どころの路線の方が重大である。

 今度私鉄に乗ったら車内広告をよく見てほしい。自社やグループ会社の広告が多く並んでいたら、売れ行きが悪い証拠である。広告主が現状の広告枠に魅力を感じていないのであれば、媒体価値を上げるしかない。私鉄の現状は、ドア上への広告用ディスプレー設置を進めている段階だが、JR東日本のデジタルサイネージ戦略が成功すれば後に続いて、まど上広告のデジタル化も進むことになるだろう。例えば既に、東急電鉄が田園都市線で導入を進めているE235系ベースの新型車両2020系は、一部編成を同様のデジタルサイネージ仕様で製造している。

 携帯電話、スマートフォンが普及する以前は、乗車中の時間をつぶすためには車窓の景色か中づりを眺めているしかなく、景色が見えない地下鉄の広告は注目度が高いとも言われていた。今後も交通広告が生き残るとすれば、これまでとは違った形で交通機関の特性を生かした媒体価値を見出していくしかないだろう。

 天気や気温、時間、位置情報などに応じて、その瞬間、その場所に最適な情報を発信する「ダイナミック・デジタルOOH」と呼ばれる広告手法の導入など、新しい試みも徐々に始まっている。鉄道の本質である移動にひもづいた価値を与えられるような、交通広告の復権に期待したい。

(枝久保達也:鉄道ジャーナリスト)