●2陣営で綱引き繰り返す

 そして、この構造を見抜き、最後まで争奪戦に残ったのが、二つの海外勢力。両勢力とも、東芝メモリを他人に奪われたくない半導体メーカーと、その思惑に乗った投資ファンドのコンビネーションによって革新機構と政投銀を担ぎ出し、それぞれの陣営を形成した。

 まず一つ目の陣営が、東芝メモリと主力工場を共同運営する“同棲相手”で結婚を当たり前だと考えているWDを中心に、米投資ファンドのKKRと結び付いた日米連合だ。WDは、同社の同意なく東芝メモリを売るのは「契約違反」として売却の差し止めを求める訴訟を起こし、強気のアプローチで攻め続けた。

 もう一方の陣営は、表向きソフトな交渉姿勢を保った日米韓連合だ。米投資ファンドのベインキャピタルを幹事役として、ハイニックスなどが参加する。ハイニックスは東芝メモリの競合相手であるため警戒されているが、当初は「融資のみの参加」を建前にアプローチした。この2陣営は、片方が優勢に立つともう片方が「ちょっと待った」と叫び、譲歩案を提示するパターンを繰り返した。

 そして、この綱引きの裏では「どこでもいいから早く決めてほしい」と早期決着を求める主力行と、「より良い条件を求めて結論を焦るべきではない」と熟考を促す経産省らの思惑が入り乱れた。東芝社内でも意見が割れ、綱川智社長のリーダーシップの欠如もあらわとなる。

「相手は強盗と詐欺師」──。これは、交渉の最終局面で、ある政府系の関係者から飛び出した過激な発言だ。「片方は強欲な人で、片方は怪しげな人。東芝はどちらがいいのか決め切れない」との乱暴な例えは、交渉が極限状態にあることをうかがわせた。

 この争奪戦に幕を引いたのは主力行の最後通告だ。銀行は「9月20日までに東芝が売り先を決められなければ、地方銀行との協調融資が崩れかねない」(主力行首脳)とデッドラインを引いたのだ。

 最後までWDは大本命であり続けたが、結果的にWDの強硬姿勢があだとなった。

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