東芝が日米韓連合を選んだのを受けて、WDは9月26日に東芝メモリ売却の暫定差し止めを求めたと発表し、訴えをまた追加した。仮処分は、12月から来年1月ごろに出される見通しだが、視界の霧は濃くなるばかりだ。

 日比谷中田法律事務所の副田達也弁護士は「仲裁の暫定差し止めの判断が執行力を持てば、東芝は(数年先になる)仲裁の判断が確定するまで東芝メモリを売却できない可能性が高い」とみる。

 これでは、東芝メモリを年度内に売却して東芝株の上場廃止を回避するという当初のシナリオは瓦解する。もともと売却決定が遅れに遅れており、各国の独占禁止法の認可が3月末に間に合うかという課題を心配する以前の問題だ。

●日本企業の課題が浮き彫り

 東芝メモリ売却の顛末を見てみると、幾つかの教訓が浮かび上がる(図2参照)。

 最大の課題は、国が民間企業の売却交渉に介入することの限界だ。

 2016年のシャープ争奪戦に敗れた経産省は「日本にフラッシュメモリーの技術を残す」ことを大義名分に、東芝メモリの売却交渉にも積極的に関与し、自ら当事者として交渉に参加した。

 そもそも「国が乗り出さざるを得なかった」(経産省幹部)のは、重要産業であるフラッシュメモリーの買収に乗り出す日本企業がいなかったためだという。

 確かに、東芝メモリの買収に手を挙げた日本企業は皆無。名乗りを上げたのは海外企業ばかりで、半導体産業にリスクを取れない日本企業の姿も露呈した。

 国の介入がなければ売却先は入札で高い買収額を提示した台湾の鴻海精密工業となったかもしれないが、ふたを開けてみれば、東芝メモリを買収する日米韓連合に韓国の競合メーカーが参加したのは、皮肉なオチになった。

 産業史に残るであろう東芝による子会社の売却劇は、政府とメーンバンク、民間企業との関わり方をこれからも問い続ける。