米国企業にとって交渉に訴訟を活用するのは一般的だが、東芝がこのやり方に強く反発した。

 さらに、WDが東芝メモリの経営権の取得に意欲を見せたことも東芝の不信を呼び、WDの「将来的な議決権」の在り方は、最後まで交渉のネックになった。

 WDは最終局面で、議決権を放棄する大幅な譲歩案を示したが、それは東芝が日米韓連合への売却を決める前日。「時間切れ。しかもペーパー3枚足らずの生煮えの案だった」(交渉関係者)。

●急ごしらえの「寄せ木細工」

 こうして見事、嫁取り合戦に勝利した日米韓連合だが、実はこちらもWDの最終譲歩案に負けず劣らず急ごしらえの産物だ。

 日米韓連合に参加することが決まった革新機構と政投銀は「東芝がWDと訴訟で争っていれば出資はできない」(機構幹部)との立場を一貫して主張し、訴訟リスクが解消するまで出資を見送る。

 これにより、当初の資金は連合に参加する企業が肩代わりする一方で、カネを出さない革新機構と政投銀は議決権を確保するという複雑怪奇なスキームができた。

 結果、革新機構と政投銀に配慮して急ぎ肩代わり出資を集めたため、参加企業は8社という大所帯に膨れ上がった。

 フラッシュメモリー世界トップの韓国サムスン電子は2兆円規模の追加投資で独走態勢に入っている。世界2位の東芝メモリも、それに対抗するため、経営判断を迅速に行う必要があるが、その株主は、主要顧客のアップルや米デルなど利害関係者が入り乱れた「寄せ木細工」の連合で、今後の事業運営に懸念を残している。

 そもそも、この案では「将来の議決権問題」は解決されていない。当初は、融資で参加としていたハイニックスは、投資ファンドのベインから保有株を買い取れば、東芝メモリの議決権が高まる。東芝メモリの競合であるハイニックスが影響力を強めれば、「船頭多し」の混乱に、さらに拍車が掛かるだろう。

 もっとも目先の問題はさらに深刻だ。WDは5月に国際仲裁裁判所に東芝メモリの売却中止を提訴して以降、矢継ぎ早に訴えを起こし続けてきたが、その怒りの火に油が注がれている。

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