●部屋で日本人男性の顔を見た瞬間 「怖い」と言ったマルセーラ

【『サバイバー』のあらすじ】
 21歳のシングルマザー・マルセーラは、娘や母、兄弟の面倒を見ながらコロンビアで暮らしていた。貧困に苦しむ毎日の中、あるきっかけから日本で働くことを決める。仲介者を通じて日本へ入国するが、東京で待っていたのは「500万円の借金を返すまでは帰国させない」「売春婦として働き、1日2万円を支払うことができなければ借金の利子がつく」という言葉だった。マルセーラは日本に着いた日からすぐに、池袋の路上で売春婦として仕事を余儀なくされる――。

――安田さんはアメリカでマルセーラさんに取材した際、彼女から「怖い」と言われたそうですね。「日本人の男性を目の前にすると、どうしても昔の記憶がよみがえってしまう」と。

安田:最初に会ったのはモーテルのロビーでした。そのときはすごく朗らかに握手をして明るい表情だったのですが、ホテルの部屋の中に入って通訳の女性と3人になったときに、表情が急に強張って緊張した感じになったんですね。

「どうしましたか?」と聞くと、「怖い」と。あ、そうか、ここはホテルの一室。そこは応接室もあるような広い部屋だったけれど、それでも日本の男と同じ部屋にいるというのは、彼女にとって(過去を思い起こさせる)恐怖なのだということが伝わってきました。そのときに、軽くどつかれたぐらいのショックを受けましたね。彼女がどのぐらい傷ついているのか、あるいは日本という国や日本人の男性という存在に対してどれほどの恐怖や嫌悪を持っているのか、そのときにわかった。自分の甘さみたいなものを、冒頭で知ることができたと思いました。

――マルセーラさんは1999年頃から池袋の路上に立って売春をしていたと本書では書かれています。

安田:当時、僕は週刊誌の記者をしていて、池袋のあたりの状況をよく知っていました。当時は池袋や、歌舞伎町の職安通りから新大久保にかけては多くの南米人、特にコロンビア人がいました。その後、新大久保は韓流ブームで韓国街に変わりましたが。僕は外国人を特に担当していたわけではないけれど、日本の中で外国人が増えていく時期で、すごく気になる問題でした。

●外国人セックスワーカーを買っているのは日本人

――厚労省の発表では、1999年の外国人の合法的就労数は42万人。ただし、不法残留者を含む就労者数は67万人と推計されていたようです。2015年には届出の出ている数だけで90.8万人に増えています。

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