安田:中国人実習生の取材をしているときに、中国人の通訳の方からこんな話を聞きました。日本の中小企業が縫製工場で働く女性の採用をする際に、女性の胸に番号をつけて並ばせて、「〇番を雇います」って選んでいくんだと。その様式そのものが人身売買そのものに見えるけれど、中国側も日本側も正当な集団面接だと思っている。それを見た中国人の通訳は嫌な気持ちになったと言っていました。なぜなら、若くてきれいな子から選ばれていくから。「あなたはミシンの経験がどのぐらいある?」とか「どんな技術がある?」とか、そういう話ではないと。

●実習生へのセクハラも横行 知られざる日本社会の闇

――それは最近のことですか?

安田:2006~7年頃に聞いた話です。実習生へのセクハラも実際相次いでいますね。純粋に人材を欲しがっているのでしょうが、結局、下心をもって接する経営者も少なくない。

――そういった状況や、人身取引報告書で厳しい評価をされていることを知らない日本人も多いかもしれません。

安田:アメリカの国務省が、報告書の中でセックスワーカーと外国人実習生の両方を挙げていることがとても重要です。日本って実は少しも開かれていない国だということがよくわかる。日本は外国人が生産現場で働いていいという法律は一つもないんです。外国人は工場で働いちゃいけない。じゃあなんで、工場で中国人やベトナム人が働いているのかというと、これは移住労働者ではなく「実習生」だから。出稼ぎ労働は日本では禁止されている、先進国の中では極めて特殊な国です。でも労働力が足りないから、"抜け道"として実習生制度があったり、日系人が活用されている。日本の外国人政策って遅れてますよ。

――『サバイバー』は日本でどのように受け止められると思いますか。

安田:僕もそこに興味があります。セックスワーカーの女性がどんな体験をしたのだろうという興味本位で手に取る人が多いと思います。僕はそれでもかまわないと思っています。本を読むきっかけなんて、興味関心で良いと思っているので。読んでいく中で、日本社会の醜悪な部分や、出稼ぎに行かざるを得ない南米の女性の問題を、少しでも理解してもらえたら関わった一人としてうれしいですね。

 1990年代の池袋の光景の中ではなく、日常的に、もっと身近なところに無数のマルセーラがいるということですね。そういう社会だと気が付くことが必要だと思います。

◆Marcela Loaiza(マルセーラ・ロアイサ)
1978年コロンビア生まれ。1999年に来日し、セックスワークを強要される。2001年に帰国し、2009年に日本滞在中の出来事をまとめた手記が大ヒットし、2011年に続編を刊行。その後、米国に移住し、人心取引撲滅のためのNPO Fundacion Marcela Loaizaの代表として活動する。

◆安田浩一(やすだ・こういち)
1964年静岡県生まれ。週刊誌記者を経てフリージャーナリストに。主な著作に『ネット愛国』(講談社+α文庫)、『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日新聞出版)など。

(プレスラボ 小川たまか)