こんにゃくがおいしくて、低カロリーで、ヘルシーな食材であることが、健康に関心の高い層におおいにアピールできたのだ。

 そうなれば。やはり目指すはあの国だ。メタボ王国・アメリカに殴り込みである。

「肥満が社会問題となり健康志向が高く、ベジタリアンも多いアメリカはこんにゃく輸出の有力なターゲット。まずはこんにゃくを知らないアメリカ人の嗜好にあったメニューを知る必要がありました」(大井さん)

●「低カロリー」「グルテンフリー」でニューヨーカーも次々虜に!

 群馬県は2014年、いよいよニューヨークに打って出た。ウエストビレッジに「こんにゃくアンテナカフェ」を設置したのだ。こんにゃくをアメリカ人の肥満撲滅に役立てたいという日本人オーナーの光野幸子さんと、群馬県出身の小林昇さんが共同経営する日本食材を中心に提供するレストラン「TOKYO TAPAS CAFE」の協力のもと、群馬県のこんにゃく料理の提供、こんにゃく商品の嗜好調査、理解醸成を図ることにした。

 かくして、アーティストや、ミュージシャンといった高感度なニューヨーカーたちが集まるエリアに、Konnyakuがデビューした。しかし当初は、アメリカ人もほかの国と同様のリアクション。

「こんにゃくが、なんだかわからなくて、手を出さないお客さんが多かったようです」(大井さん)

 なんだかわからない「物体」であるからには、「美味しいですよ」は通用しない。そのうえ、「わざわざ食べる」理由が必要だ。

 こんにゃくアンテナカフェのスタッフは、とにかく口頭で「こんにゃくを理解してもらうこと」に努めた。「こんにゃくはベジタブルなんですよ、ポテトなんですよ、身体にいいんですよ、カロリーが低いんですよ、食物繊維もたっぷりとれるんですよ」と説明してまわった。

「説明を聞いて、こんにゃくがいったい何なのかわかれば、そして、そのよさがわかれば興味を示して、食べてくださるお客様が増えました」(大井さん)

 さらに低カロリー以上に、アメリカ人への効果絶大なセールストークになったのが「グルテンフリー」という言葉だった。グルテンとは、小麦などに含まれるタンパク質の一種。近年小麦アレルギーが増え、セレブの間でグルテンフリーダイエットがブームになるなど、「グルテンフリー」市場が確立されているアメリカにまさにマッチした食材だったのだ。

 納得すれば、「未知なるものでも食べてもらえる」。関係者全員が「絶対ウケない」と思っていたはずの「刺身こんにゃく」は、「身体にいいベジタブル」とナットクしたニューヨーカーから意外にも好評だったのだ。

 ニューヨーカーたちからの「ヘルシーフード」の支持を得て、こんにゃくメニューの人気は急上昇。とくにこんにゃくヌードル、こんにゃく米チャーハンがそのハートをつかみ、あっという間にレギュラーメニューになった。15ドルと高額でも大人気だ。

 シェフも次々とアメリカ人の嗜好に合わせた、こんにゃくレシピを開発した。巻き寿司に薄く切ったこんにゃくをのせたこんにゃくロール、こんにゃくカルパッチョや、こんにゃくゲルを使ったジェルタイプのドレッシング。こんにゃく入りパン、こんにゃく入りプリン、など、いずれも好評。リピーターも増え、表に飾られた群馬県作成のこんにゃく普及タペストリーの「What is Konnyaku」の文字を見て、店に入る人も増えた。

●フランス、ミラノ万博でも大好評! いまやブレイク寸前の「ヘルシーフード」に

 好評を受けて、「わけのわからない物体扱い」だったこんにゃくが少しずつ、「ヘルシーフード」として海外へと飛び立ち始めた。

 群馬県産こんにゃくのEU、香港、アメリカへの輸出がスタートした。EUについては群馬県から輸出されている農産加工品の多くを、こんにゃくが占めるなど順調に拡大している。

 また、大井さんいわく「空飛ぶこんにゃく」を目指す、画期的なこんにゃく商品も誕生した。「レトルトこんにゃく」である。レトルトの中に、こんにゃく麺あるいは、こんにゃくご飯とソースがどちらも入り、そのまま加熱すればパスタやうどん、リゾットが一気に完成する。「加熱しても、溶けない」こんにゃくならではの強みをいかした商品である。もともとあまり料理をする習慣がない、中国、東南アジアへ市場への展開にも貢献する商品だ。さらに、その利便性から「機内食としての利用も検討されています」と大井さんは語る。

 そして、こんにゃくにとっては、和食が世界ユネスコ無形文化遺産に認定されたことが大きな追い風となった。世界各地で「こんにゃく」の認知度が、じわじわとアップしてきたのだ。

 フランスではいま、日本食ブームが起きているなかで、こんにゃくの美容効果に注目するドクターも登場。著書では「日本人女性たちの食を見習うべき」と、こんにゃくの効能の素晴らしさを紹介。雑誌でも「日本人の女性スリムな体型、肌の美しさ、その秘密は『こんにゃく』である」といった「こんにゃくビューティ記事」が掲載されるなど、いまやこんにゃくは、パリジェンヌからの熱い視線を浴びる食材に。

 そして、先月にはこんにゃくが、イタリアで注目を集めた。「2015ミラノ国際博覧会」日本館に出展した群馬県は、現地の人にアピールするべく、こんにゃく料理をふるまった。

 イタリアでも、日本食への興味から「こんにゃく」の名前を知る人が意外にも多かった。「こんにゃくがいったいなんなのかは、わかっていなくても『健康にいい食材、美容にいい食材らしいので関心がある』という声が多数ありました」と大井さんが感慨深げに語る。

 来場者へのこんにゃくメニューは、ミラノの日本料理店「Sushi B」エグゼクティブシェフ・新森伸哉氏によるもの。「紫蘇ペーストで和えたこんにゃくのタリアテッレ、シチリアの赤海老と豆腐のソース」、「上州和牛フィレとこんにゃくのすき焼きスタイル(ミラノ風すき焼き)」などが大好評だった。

「美味しくて、太りにくいのは素晴らしい」「どこで買えるのか」「うちでも作ってみたい」など、老若男女から大絶賛。「こんにゃくと桜ティーのチョコラティーニ」「抹茶とバニラ、こんにゃくのプラムケーキ」「グレープと柚子の2色のソルベとこんにゃくの砂糖漬け添え」などのデザートも人気を博し、ミラネーゼの心もつかんだ。

「こんにゃくは、健康に気を遣う人、日本食に関心がある人には確実に届く」と大井さん。

「こんにゃくは、最近、海外のあちらこちで『ブレイク寸前』と言われているんです。『豆腐の次にくる』と。豆腐だって最初は『なんだかわからない』商品として、スーパーのペットフード売り場に置かれていたそうですからね」

 群馬県がミラノ国際博覧会用に作成したリリースには「そもそもこんにゃくは、そのままでは食べられない植物を食用にする技術や、食糧保存など先人が受け継いできた知恵の結集」と書かれている。だから「世界のさまざまな食の課題を解決するテクノロジーを持った食材としての地位を築く可能性がある」としたうえで、そこに書かれていたこんにゃくのキャッチコピーに、なるほど、と思った。

「こんにゃくは群馬伝統の未来食!」

 どんな食べものにもバケる未来食・こんにゃくが、日本人が思いもつかぬ姿となり、世界各地で愛される日が近いかもしれない。

<取材ご協力>
■北毛久呂保