写真:Junichi Takahashi
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 応接室に入ると、足もとにフワフワの絨毯。あまりにも気持ちいいので、思わず手で撫でてしまう。さすが有名な「山形緞通」と思っていたら、その説明を聞いてさらに驚いた。

 「この絨毯は70年前に作ったものなんです。10年おきにクリーニングをしていますが、あとはほとんどそのままで使っています」(オリエンタルカーペット・渡辺博明社長)
 
 山形県山辺町のオリエンタルカーペットは日本はもちろん、世界でも指折りの高級絨毯メーカーだ。伝統的な手織りの技術に、日本ならではの色や柄を組み合わせた絨毯は、皇居新宮殿や京都迎賓館、アメリカ大使館、さらにはバチカン宮殿やサウジアラビアの王室などにも納入されている。今年、新装となった東京・銀座の歌舞伎座の絨毯もオリエンタルカーペット社製だそうで、確かに歩いていて足もとが気持ちよかったのを覚えている。もしかしたら他にも知らない間にオリエンタルカーペットの絨毯の上を歩いてきたのかもしれない。

 「昭和初期の冷害凶作による大不況では、子どもが身売りされるほど深刻な事態だったそうです。昭和10(1935)年、創業者である私の祖父がその状況をなんとかしたいという思いで始めたのが日本での絨毯作りでした。中国から技術者を招いて絨毯作りを始めたそうです」

 オリエンタルカーペットには、毛に風合いと艶を与える「マーセライズ」という独自技術があり、出せる色数は2万色以上あるという。その技術の細やかさがわかるのが、応接室の壁にかけられたたくさんの絵画。一見普通の絵なのだが、額縁に近寄ってみると、なんとすべて絨毯。さらに驚いたのは、絨毯で作られた能面。毛の刈り込み具合で見事に立体を表現している。このような繊細さは、日本ならではだろう。

 「戦後はアメリカ向けに『フジインペリアル』というブランド名で輸出をしましたが、大変評価が高かったようです。クールジャパンの走りですね(笑)」

 ここでは絨毯作りをすべて自社で行っている。糸を紡ぎ、染め、織り、そして磨く。以前は羊を飼育したこともあるそうだが、日本で育つと毛が柔らかくなってしまい絨毯に向かなかったという。

 一連の作業を見学させてもらったが、印象的だったのは「織り」。織りには2種類あって手間ひまがかかるのが「手織」だ。織機の奥に置かれたデザイン画に合わせて1本ずつ毛糸を手繰りながら、糸を絡めて織っていく。熟練の作業員でも1日に織れるのは7~8センチほど。これで何畳という大きな絨毯を作るというのだから、気が遠くなる作業だ。

 「今、特別注文で京都の祇園祭の南観音山に飾られる胴掛けを作っていますが、柄が細かい上に、かなり細い絹糸を使っているので1日に1センチが限度。1年がかりで作っています」

 もうひとつの織りの方法が「手刺」。こちらはクラフトンという手持ちのミシンのような工具を使って、木綿の生地に毛糸を刺すように織り込んでいく。このクラフトンが小さなマシンガンのようで、作業中は「ドドドドド……」と連続音が響く。女性たちが大きな布に向かってマシンガンを撃ちこむような光景はなかなかにシュールだった。

 「手織りの絨毯なら100年以上使えますし、『堅牢染め』という染めの技法を使っているので、色あせることもほとんどありません」

 最近は、地元出身のデザイナー奥山清行さんや、建築家の隈研吾さんとコラボレートして、現代的なグラフィック柄や、まるで苔の生えた庭のような絨毯も発表している。日本でもどんどん洋風のライフスタイルが広がっているし、〝外と内〟の境界も曖昧になってきている。オリエンタルカーペットの技術とクオリティがあれば、いろいろと面白い〝境界〟が作れそうだ。