photo Junichi Takahashi
photo Junichi Takahashi

 日本の旅を始めたのは2009年4月25日、沖縄から。今年4月に行った岩手までで43都府県を巡り、山形、秋田、青森、北海道を残すだけとなった。伝統工芸や伝統芸能、農業(漁業)、酒蔵、寺社仏閣など、訪問先は1279軒にも上る。その土地で1番の宿を探すために毎日違う宿に泊まった。

 当初は全47都道府県を半年か1年で回るつもりだったのだが、はるかにオーバーしたのは、日本という国や文化が想像以上に面白かったからだ。最初からガイドブックなどに頼らず、とにかく現地の情報と自分の勘を頼りに、面白そうな場所や店があれば寄り、そこで出会った人に新たな行き先を尋ねた。農業や伝統工芸に関心はあったが、今ほど強い思いはなかったし、実際に見せてもらっても魅力になかなか気づけないでいた。

 それでも旅を続けていくと、やがて点が線になり、訪問した人が新たな人を紹介してくれ、人の輪がどんどん大きくなっていった。各分野の専門家の方と仲良くなり、きちんと訪問先も紹介してもらえるようになった。九州の旅を終えるころには、すっかり日本と、日本文化に夢中になっていた。

 日本の建築や美術に触れ、昔から興味があったアートや建築、デザインなどがより好きになった。茶道に興味を持てば、器や茶道具のことを知りたくなり、おいしいレストランに出合えば、その土地ならではの食材を知りたくなった。伝統芸能の方々の凛とした身のこなしを見て、作法を学びたくなった。訪ねた先からいただく直筆のお礼状を見て、書道を身につけたくなった。

 TAKE ACTION FOUNDATIONでやっている「REVALUE NIPPON PROJECT」も、この旅がなければ始まることはなかった。旅を通して、自分自身も4年前と随分変わったと感じている。

 さまざまな現場で体験させてもらったことは、何物にも代えがたい。陶芸家の方と一緒にロクロを回し、和紙を漉き、漆を塗る。豚の餌付けをし、稲刈りをし、海苔漁の船にも乗った。自分でやってみることで、いろいろなことが理解できたし、何よりもそこの人たちとのつながりも深くなったと感じられた。和服を着るようになったし、三味線や書道の稽古も始めた。歌舞伎や狂言、日本舞踊を見に行くようにもなった。いずれも一朝一夕に理解でき、身につくようなものではないが、だからこそ面白いのだ。

 サッカーをやめてから、なかなか次に打ち込めるものを見つけられなかった。20年以上やってきたものの代わりなんて、そう簡単に出合えるものではない。それでもこの日本の旅は、僕自身の“次”になりそうな予感がする。日本の伝統工芸、文化、食、いずれも情熱をかけるだけの奥深さがあり、大きな可能姓を秘めている。僕はこれらの魅力を国内外のもっとたくさんの人に知ってほしいし、自分らしい形で何かできないかと思っている。

 僕の旅はまだまだ続く。日本一周の旅はあと4道県で終わるが、その後もこの日本という国を旅することをやめないだろう。旅をするほど日本の奥深さに驚嘆し、虜になっていく。僕の第二の人生はここにあるのではないかと思っている。連載はこれで終わるが、また別のカタチで、日本の魅力を伝え続けていきたい。4年間、本当にどうもありがとうございました。

photo Junichi Takahashi 題字 藤田幸絵

※このコラムはAERA2013.5.6-13号に掲載された雑誌連載の最終回分です。中田さんの旅の続きは「dot.」で引き続き連載をいたします。次回更新は6月中旬の予定です。