84年8月3日号の「アイドルもリセ大好き」という特集では、10人のアイドルが誌面に登場しています。小泉今日子は冒頭で取りあげられ、堀ちえみとならんで2ページをあてがわれています(菊池桃子や岡田有希子など、他の8人は1ページ)。

 84年10月3日号は、「オリーブ少女の髪型(ヘアスタイル)はショート・カットに決めた!」というコピーが表紙に躍っています。読者モデルとして、「オリーブ少女」の憧れの的だった栗尾美恵子が、「誌上断髪式」をおこなって話題を集めた号です。「突然この秋、アイドルたちもショート旋風」というコーナーに、小泉今日子の写真が載っています。キャプションには、

「彼女が、もしショートに/しなかったら……?/ありがとうキョンキョン」

 前回触れた「小泉今日子の短髪化」に、どれだけインパクトがあったよくわかります。

 84年11月3日号でも、小泉今日子は話題にされます。「オリーブ少女のプライベート時間、100人に質問!」という欄の「好きなアイドルは?」という項目に、女性アイドルとしてはひとりだけ、名前をあげられているのです。

 85年8月3日号には、男女の着せかえ人形が付録についています。男性の人形の顔はチェッカーズの藤井郁弥、女性のほうは小泉今日子です。

 「オリーブ」の提案するおしゃれは、しばしばいわれるように、“ストレートには”モテをめざしません(注1)。短髪アイドル時代の小泉今日子は、男性以上に女性から好まれていました。その点から見ると、彼女が「オリーブ」のアイコンのようになっていたのも不思議な話ではありません。

■魔性の「オリーブ少女」

 小泉今日子はしかし、最盛期の「オリーブ」にほんとうにマッチしていたのでしょうか?

 私の知り合いに、「オリーブ少女を僕がなんとかしてあげなくちゃ」といって、結婚した人がいます。彼女があまりに夢見がちで、浮世ばなれしているように見えたので、心配になったのだそうです。

 前回、マリリン・モンローの人気は、セクシーな肢体のためではなく、男性の「俺がなんとかしてやらなくちゃ」感をかきたてるからだと述べました。知人の心を「オリーブ少女」がつかんだ回路は、モンローとおなじです。

 何年か前、「森ガール」ということばが一部ではやりました。ゆったりとしたシルエットの、少女趣味全開の服を好む女性たちをさす語です。由来は「森から出てきたような恰好をした女の子」だとか。じぶんの世界に陶酔しきり、モテをめざさない――そんな風に見える「森ガール」のありかたは、「オリーブ少女」に通じるとしばしば指摘されます。
 この「森ガール」について、評論家の湯山玲子はうがった見方をしています。

「(若い女の子は男性に)やっぱり少女性というもので、取り入ろうと思うよね。森ガールというのはそういった少女性をテクニックにして引っぱっといて、がぶりと食う」

「森ガールは、草食系の男たちを狩りに行っているんですよ。草食に食ってもらう草になればいいわけです」(注2)

 自信のない男性は、「赤文字系雑誌」を読んでいそうな感じの女性を見ると、馬鹿にされるのではないかと引き気味になります。いっぽう「森ガール」や「オリーブ少女」には、そういう怖い印象は抱きません。

 そんな「自信ない系男子」にターゲットをしぼり、コンスタントにモテている女性もいます。彼女たちは、湯山のいうように「少女性」で相手を引きよせようとして、「森ガール」や「オリーブ少女」をよそおいます。

 あからさまにモテをめざしている女性は、相手をあまり幻滅させることはありません。そういうタイプとつきあえる男性しか、そばに寄ってこないからです。「森ガール」や「オリーブ少女」偽装系は、見た目と本心にギャップがあるため、「こんなはずでは……」というとまどいを、しばしば相手にあたえます(私の知り合いも、結局離婚してしまいました)。

「森ガール」や「オリーブ少女」がすべて、「少女性で草食男子を狩るタイプ」だと私は思いません。しかし、あどけなさを演出することでモテようとする「オリーブ少女もどき」も、たしかにいたのです。そういう「もどき」と、男性の「俺がなんとかしてやらなくちゃ」感にまったくはたらきかけない小泉今日子は、ちがう世界の住人です。

■小泉今日子が「森ガール」になるとき

 それでは、「もどき」でない「オリーブ少女」は、小泉今日子の「同志」といえるでしょうか?

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