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第1回 小泉今日子の「謎」はどこにあるのか

文・助川幸逸郎

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■はじめに

「小泉今日子48歳。年齢は隠しませんが、正直シミやくすみは隠したい」

 小泉今日子が、堂々とそう告げたあと、頬のシミにファンデーションを塗る―― そんなCMが、このごろテレビで流れています。

 このCMで小泉今日子は、「誰もが言いたくて、言えない本音」を隠さず口にしているのに、ちっとも開きなおりには見えません。シミを画面にさらしているのに、「やめておいた方が……」という風に思わせないところも見事です。

 小泉今日子は、「加齢」と正面から向き合うことで、「齢を重ねなければ手に入らない魅力」を得ることに成功しています。「中年には見えないほど若くて美しい」のではなく、「中年にしか身にまとえないかっこよさ」に溢れているのです。日本の女性に、こういう人はなかなかいません。映画に出ても歌をうたっても、デビュー当時より現在のほうが、はるかに存在感があります。

 女性にとっても男性にとっても、現代では「成熟すること」が困難です。「女は専業主婦、男は企業の正社員」という、標準的な到達モデルがくずれ、ひとりひとりが齢の重ねかたを考えなければなりません。

 どうすれば小泉今日子のように、齢とともに魅力を増していけるのか――その秘密を知ることは、現代を生きる私たちにとって大きな意味があるはずです。

 小泉今日子は、時代の変化に的確に対応しながら変わりつづけてきました。彼女の変わっていき方のカナメの部分が理解できたなら、私たちもまた、自分らしく年輪を積みあげていけるかもしれない。そんな期待をこめて、この連載では「デビューから今日に至るまで、小泉今日子がどのように変わっていったか」を、社会状況の変化とかかわらせながら見ていきます。

■類いまれな「変化する力」

 小泉今日子の芸能生活は、転身の連続です。

 1982年にデビューしてから、彼女はずっと第一線で活躍しています。それだけでもすごいことですが、「息の長いビッグスター」というだけなら、他に例がないわけではありません。たとえば、松田聖子は、小泉今日子よりも早く芸能界に入り、一貫して日の当たる道を歩きつづけています。

 ただし、松田聖子は、若い頃からほとんどイメージが変わりません。可愛らしいルックス、スキャンダルにへこたれない強さ。時にはドラマや映画にも出ますが、芸能生活の軸はつねに歌です。そのうまさは、デビュー当時から抜群でした。

 これに対し、同期にキラ星のように個性豊かな女性アイドルがそろっていた小泉今日子は、デビュー直後は今ひとつ際立っていませんでした。当時としては珍しかった「帰国子女アイドル」の早見優、脆さと気まぐれさが交錯する松本伊代、山口百恵の後継者といわれた中森明菜―― 強力なライバルに囲まれ、「正統派アイドル」路線を歩んでいた小泉今日子は、完全に埋もれていたわけではないにせよ、セールスポイントがぼやけ気味でした。

 しかし、デビューの明くる年、松田聖子そっくりにしていた髪形を短髪に変え、小泉今日子は「かわいい」から「かっこいい」へ、アピールする方向に転換します。その結果、

「女性アイドルのメインターゲットは若い男性」

 という常識を覆し、同世代女子の絶大な支持を得るようになりました。「かっこいい」を目指して転身することで、小泉今日子は、まったく新しいアイドル像を確立したのです。

 小泉今日子がイメージチェンジに成功した直後、日本はバブル経済に突入しました。この時代、金あまりの世相を反映して、大がかりな予算を投入した悪ノリ気味のプロジェクトがはやりました。その種の企画に、いちばん重宝に使われたアイドルが小泉今日子でした。男性よりも女性に人気があり、奇抜なことを仕掛けるときに起用するとピタリとはまる――今でいうと、きゃりーぱみゅぱみゅみたいなタレントだったのです。

 90年代に入ると、流行の最先端だった渋谷系ミュージシャンたちの手がけた楽曲を歌い、小泉今日子は「お洒落なアーティスト」路線を歩みます。1995年に永瀬正敏と結婚した頃からは、女優としての活動が本格化、いくつもの演技賞に輝きました。2004年には永瀬と離婚。以後は演技と歌の両方で、同世代の女性の心情をもっとも的確に代弁する存在になっています。読売新聞の書評委員など「文化系」の活動も好調です。

 小泉今日子は、どんどん路線をチェンジしていって、つねに時代から求められるポジションに身を置いています。こうしたやりかたは、真似ようとしても、なかなかできる業ではありません。

 アイドルから本格派歌手にイメージを変えようとはかったり、音楽畑で活躍していた人が俳優にシフトを試みたり―― そうした路線変更は、珍しいことではありません。一つのことだけに取り組んでいたのでは、芸能人としての寿命が限られるからです。しかし、小泉今日子のように何度も転身をくり返し、その度にステップアップしていくケースは滅多にありません。

 現在の小泉今日子は、同期にデビューしたアイドルの誰よりも輝いています。その輝きは、デビュー当初から備わっていた天与の魅力ではなく、比類のない「変化する力」によってもたらされたものです。

 この「変化する力」を、どのようにして小泉今日子は手にしたのでしょうか?


(更新 2014/11/20 )


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プロフィール

助川 幸逸郎(すけがわ・こういちろう)

 1967年生まれ。著述家・日本文学研究者。横浜市立大学・東海大学などで非常勤講師。文学、映画、ファッションといった多様なコンテンツを、斬新な切り口で相互に関わらせ、前例のないタイプの著述・講演活動を展開している。主な著書に『文学理論の冒険』(東海大学出版会)、『光源氏になってはいけない』『謎の村上春樹』(以上、プレジデント社)など

※当コラムをテーマにした、助川幸逸郎先生の講座をよみうりカルチャー自由が丘で開催
http://www.ync.ne.jp/jiyugaoka/kouza/201504-01210123.htm
問い合わせは同センター 03-3723-7100

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