つやつや光る真っ黒な毛並み、長い尻尾に金色の目。ニャオニャオとよくしゃべる食いしん坊。実家の86歳の父の愛、クロ(写真、雄、たぶん壮年)である。

 クロとの出会いは2年前。畑の向こうにふらりと現れ、しきりに鳴きかけてきた。
 なのに呼んでも来ず、近づくと逃げる。私たちはこの猫をクロと呼び、畑の隅に餌を置いては食べに来るのを待つようになった。

 猫好きな父は、クロを手なずけようと考え、餌を玄関先に置くことにした。
 初めクロは植木の陰に隠れて食べていた。撫でようと手を伸ばそうものなら、ハーッと威嚇しながら爪を出して引っ掻き、狂暴この上ない。しかし父は根気よくクロを見守り続けた。

 クロは少しずつ心を開き、安心しきった表情で餌を食べたり、撫でるとゴロゴロ言ったりするようになった。段ボールの家を作ると毎日そこで眠る。こうしてクロは父の猫になったのである。

 これで一件落着かと思いきや、なんとクロより一回り大きなボス猫が現れ、なわばり争いが始まったのである。連日の激しい戦いでクロは傷だらけになった。守ってやりたくても家に入るのを嫌がるため、父は「体を大きくして強くなれ」と言い聞かせ、せっせと栄養のある餌を与え、傷を消毒して汚れた体を拭いてやり、時にはボス猫を一喝してクロを支え続けたのである。

 そんな日々が半年ほど続いただろうか。ついにボス猫は去っていった。
 クロは父を心から慕っていて、足音を聞くとうれしそうにサッと駆け寄り、ゴロンと寝転んで甘える。

 散歩のときは一緒に歩き、立ち止まると足の間を8の字に回る。私は「妖怪すねこすりだあ」と言って笑う。

 最近は「待て」と「お座り」ができるようになった。「猫も衣食足りて礼節を知るんだな」と父は笑う。

(真辺雅惠さん 福岡県/56歳/主婦)

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