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漫画『羊の木』に張り詰める緊張感

文・中島かずき

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 山上たつひこといがらしみきおといえば、どちらもある時期、時代を斬り裂く先鋭的なギャグ漫画家だったというイメージがあります。

 山上さんといえば、言わずと知れた『がきデカ』です。連載が始まったのは僕が中学生の頃。毎週ゲラゲラ笑っていた記憶があります。それまでのギャグ漫画と比べて、キャラクターの異常性もテンポの速さも突出していた。
 ただ、それ以前に描いていた『光る風』の印象が強く、山上たつひこと言えば、社会派SFのヘビーな漫画を描く作家とイメージだったので、作風がガラリと変わったことに戸惑っていた部分もありました。

 いがらしさんの『ネ暗トピア』も、面白かった。
 大学時代、いしいひさいちさんの出現で、4コマの大ブームが起こりました。
 大半はいしいさんには全く及ばない凡庸な作品でしたが、その中でいがらしさんの作品は異色だった。
 人間のネガティブな感情、コンプレックスなどを、ハイテンションで笑い飛ばすその作風は、他の誰とも違っていました。
 でも、これは身を削る作風だったのでしょう。二年間の休筆の後、連載を始めたのが『ぼのぼの』です。これも大ヒットしましたね。
 それまでとうってかわったほのぼのとして淡々とした作風に変わっていましたが、その奥にある人生への根源的な問いかけなど、作家として一段と深まった感がありました。

 二人に共通して言えるのは、デビュー時の作風から大きく変わった作品で大ヒットを飛ばしたことです。
 それは作家としての器が、並大抵ではないということの証明でしょう。
 ただ、それから数十年が過ぎ、二人ともベテランの域に達してしまった。山上さんは一度漫画を引退し、小説家に転向しました。近年、また漫画家としての活動も再開しています。いずれにしろ、お二人とも今の漫画の最前線というよりは、一歩引いたところで独自の地位を築いているという風に僕は思っています。

 この二人が組んで、『羊の木』という作品を発表しました。
 原作が山上さん、作画がいがらしさん。講談社から出ている「イブニング」で連載され、現在第一巻のコミックスが発売されたばかりです。
 この二人が組むんだからきっとすごいんだろうなとは思っていましたが、予想以上にすごかった。
 人口減少が進むある地方都市で、刑期を終えた犯罪者を過去を封印して一般市民として住まわせるという計画が始まります。
 その計画に携わるのは市長と、その友人二人の三人だけ。
 凶悪犯罪を犯した11人の元受刑者がこの町に住むようになります。
 彼らの素性を知る友人達は、彼らの犯した犯罪を知っているので、どこか恐怖を感じていながら、それが偏見であるかもしれないとも思いながら対応していきます。
 それはまた読んでいるこちらも同じです。
 物語がどう進むのか予測がつかない。これから大変な悲劇が起こりそうな不穏な予兆はあるのですが、いがらしさんが描いているので、どこか乾いた可笑しさもある。
 ほんとにドキドキして、むしろ読み進めたくない、でも先は知りたいと相反する気持ちでページをめくっていました。
 面白いという言葉ではおさまらない、一言で言うと「すごいね」となる漫画です。
 でも一巻なんで、実はまだ何も起こってないですけどね。それでも、緊張感が半端じゃない。さすがのコンビです。
 
 面白かったのは、ツイッターで「『羊の木』読んだ」とつぶやいたところ、この作品の担当からリプライがありました。それがなんと僕の大学時代の漫画研究会の後輩。
 まったく知らなかったのですが、こういう縁があるのですね。
 企画と内容ともに、漫画編集者として、こういう作品に関われることはそうそう無いと思います。
 中断していた連載も年明けには再開するようで楽しみです。
 


(更新 2011/12/ 1 )


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プロフィール

中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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