先日、都内某所で『のだめカンタービレ』連載終了記念のパーティーが開かれました。
 8年間続いた連載の完結記念と関係者へのお礼ということで、二ノ宮知子先生ご自身が主催された会でした。

 テレビアニメの最終シーズンのシリーズ構成という関わりでしかなかった僕が参加させていただいていいものかと思いながらも、二ノ宮さんに直接「お疲れ様でした。最終回、素晴らしかったですよ」と伝えたかったので、おずおずと顔を出したのですが、会場に入って呆気にとられました。
 普段はジャズを演奏するライブハウスなのですが、そこにオーケストラがいる。しかも、テレビドラマの方のテーマとも言えるベートーヴェンの交響曲第7番が演奏されているではないですか。
 一気に気分が高揚します。
 指揮は『のだめ』の音楽監修も行った茂木大輔さん。オケの中心メンバーはN響という、なんとも豪華な布陣。

 席に着き、乾杯が終わり、食事が始まったあとも演奏は続きます。しかも今度は男女二人の歌手が登場。オペラまで始まっちゃいました。
 食事をとり歓談をしながらクラシックを楽しむ。本当に贅沢な空間です。
 クラシックというと、つい堅苦しいものだとイメージしてしまう。しわぶきひとつないホールで静聴するものだと思ってしまう。でも、それだけじゃなくて、このくらい緩やかな雰囲気の中で聴くというのもありじゃないかと感じました。
『のだめカンタービレ』のパーティーだったら、そういう楽しさも許されるよなと思えたのです。

 茂木さんが「『のだめ』のおかげで若いクラシックファンが500倍に増えた」と冗談を言っておられましたが、その倍率はともかく、『のだめ』の影響を受けて、クラシックが好きになったという人は相当数いるでしょう。
 いい物語は、ジャンルを活性化する。特に読者の多いマンガは、その影響力も強い。『キャプテン翼』がサッカーを、『スラムダンク』がバスケットボールを、『ヒカルの碁』が囲碁をブームにしたように、『のだめ』は間違いなくクラシックに若いファンを引き込んだと思います。
 読んだ後、前向きなエネルギーを読者に与える作品。それこそが、本当によくできた物語ではないでしょうか。
 出版元である講談社の方が「国民的作品になった」と語られてましたが、僕もそう思います。

 なんかべた褒めしてますね。
 でも、大好きなんですよ、『のだめ』。笑えるし泣ける。
 例えば、物語のクライマックスで流れる千秋真一のモノローグ。
「いくら苦しくても 気が遠くなるほどの孤独な戦いが待っていようと こんな喜びがあるから 何度でも立ち向かおうと思えるんだ」
 この言葉は、音楽家だけではない、何かを創っている人間ならみんな心に響くのではないでしょうか。
 僕の場合は、本当に満足したときのお客さんの拍手です。劇場に満ちるあの音を聴くとき、この仕事を選んでよかったと思うし、また頑張ろうと思う。
 創作者なら、誰にでもそういう瞬間がある。
 おそらく二ノ宮さんご自身にも。
 芸術家の物語のラストに、こういう言葉を選ぶ作家としての姿勢がたまらなく好きなのです。
 
 二ノ宮さんの人柄を表すように、パーティーは最後まで、とても暖かく楽しい雰囲気で終わりました。
 この場にいあわせることができただけでも、『のだめ』のアニメに関われて幸せだったなあと思います。
 そういう意味じゃ、交通事故のような出会い頭の勢いでこの仕事に誘ってくれたOプロデューサーにも感謝しなければなりません。

『のだめカンタービレ』は、現在『Kiss』誌上でアンコールのオペラ編を連載しています。本編完結後にちゃんとアンコールをやるというのも、しゃれているのですが)もう少し連載は続くのですが、とりあえず。
 二ノ宮先生、お疲れ様でした。素晴らしいエンディングでした。
 次回作も楽しみにしています。