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桜の季節に、『戯伝写楽』が開幕します

文・中島かずき

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 18歳の春。大学進学のために上京してきた僕が「ああ、東京に来たんだなあ」と感じたのは、東京駅から新宿に向かう中央線から見えた風景でした。
 お茶の水を越えて、水道橋の後楽園の手前に芳文社ビルが見えます。飯田橋から市ヶ谷のお堀端、満開の桜並木も見事でしたが、それよりも印象的だったのが飯田橋駅近くの双葉社のビル。当時大ヒットしていた『がんばれ!! タブチくん!!』の垂れ幕がビル全体を覆い隠さんばかりにつり下げられていたのです。
 電車の窓から出版社が見える。そんな光景は地方ではあり得ません。
「マスコミに就職したい」という思いで東京の大学を選んだ自分にとっては、まさに「これぞ大都会、これぞ大東京」という光景でした。
 その時には、まさか自分が、その双葉社に就職して毎日通勤でこの風景を見るとは思っていませんでしたが。
 双葉社のビルはその後移転して、今では電車から見ることは出来ません。
 信じられないくらい寒かった三月末の寒波のせいで、お堀端の桜もまだまだ満開とは言えません。
 それでもこの時期、市ヶ谷から飯田橋にかけての桜並木を見ると、あの頃のざわざわとした気持ちを思い出したりするのです。
 不安もあるけど希望もある。新しいスタートの季節だなと、あの頃の気分を思い出すのです。

 うちでは、大学に受かった子供が一人暮らしを始める準備をしています。
 関東近郊ではありますが、自宅から通うにはちょっと遠い。
 僕も、子供は一人暮らしをすることで一人前になるという考えだったので、いい機会だとは思います。
 それでも、とうとう自分の子供が家を出る時が来たのだなという感慨と感傷はあります。
 子供の胸にも、18の時の自分のようなざわざわする想いがあるのだろうかと思います。
 こんな時代だけど、自分の人生においてやりがいのある仕事を見つけて欲しいものだと、これは自分の子供だけではなく、この時期に新しい人生のスタートを切る若い人達に対して、願います。
 
 自分の場合は、たまたま若いうちに一生の仕事と出会いました。
 初めて芝居の脚本を書いたのは、高校1年の時。
 それからもう35年。
 あっという間でしたが、幸いなことに脚本を書くことにまだ飽いてはいません。幸運なんだと思います。
 
 おかげさまで新感線30周年興行『薔薇とサムライ』も好評です。
 当日券目当てのお客さんも連日並ばれているということで、本当にありがたいことです。
 しかも今回は、同時にもう一本新作舞台の幕が開きます。
 橋本さとしくん、大和悠河さん主演の『戯伝写楽』です。
『薔薇とサムライ』が僕には珍しいヨーロッパ物だったのに対して、こちらは得意の和物です。こちらも音楽劇。しかし殺陣は一切ありません。
 タイトル通り主人公は"写楽"。伝説の浮世絵師です。
 歌麿、北斎、一九、南畝、そして蔦屋重三郎。才能がきら星の如く集まった時代の中で、まだ自分が何者か分からない若者達が蠢く物語です。ざわざわする想いを持て余した男達と女達が駆け抜ける物語です。
 4/7から東京・青山劇場で。4/24.25は大阪シアターBRABA!で上演されます。
 よろしければこちらにも劇場に足をお運び下さい。


(更新 2010/4/ 1 )


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中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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