森山未來君が"虫化"する舞台『変身』 |AERA dot. (アエラドット)

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森山未來君が"虫化"する舞台『変身』

文・中島かずき

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 主人公がある朝目覚めると巨大な虫になっていたと言えば、カフカの『変身』です。
 どんな物語か知らなくても、このシチュエーションとタイトルくらいは多くの人が知っているでしょう。
 
 その『変身』の舞台版を観に行ってきました。
 脚本・演出はスティーブン・バーコフ。
 舞台化するのに、主人公が虫になった姿を巨大な着ぐるみなどで表現しようものなら、たちまち子供向けの怪人ショーになってしまいます。
 別に子供向けの着ぐるみショーをバカにするつもりはありません(むしろ好きなくらいですが)。でも、やはり素材には向き不向きがある。
 主人公の身体的表現で、巨大な虫に見せるわけです。その分、ザムザ役の役者としての力量が問われることになる。
 今回は、森山未來くんが主役のグレゴール・ザムザを演じます。
 彼も劇団☆新感線にはなじみ深い。
 僕の作品だと『五右衛門ロック』のカルマ王子役で出演してもらっています。歌にダンス、マント捌きも鮮やかな立ち回りと、その若い肉体を駆使した芝居は鮮烈な印象を残しています。
 舞台の上でどんな虫を演じるか。殆ど森山くん目当てで観に行ったようなものです。

 その期待は裏切られなかった。
 両手をクロスして四つんばいになる。カサカサと蠢かせる指の動きや、肘や膝を曲げたまま固定して移動するその姿はまさしく節足動物です。
 もちろん、虫の物まねが出来れば素晴らしいというわけではない。
 役者が役者自身の姿で虫を表現することで、ある日突然自分に身に降りかかった不条理な状態がよりリアルに感じられます。
 虫でありながら人間である。その振れ幅が、身体表現者としての俳優の腕の見せ所だと思うのです。
 見た目は人間なのに、姿勢を固定され不自由な動きのまま舞台上をはい回り、舞台の上に組み上げられたパイプにぶら下がり、落ちる。
 初めは人間の意識があったのに、それも徐々に虫化していき、家族達に疎まれ最後は死に至る。
 森山くんの身体能力の高さに改めて感心した舞台でした。

 カフカと言えば、昨年ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが『世田谷カフカ』という芝居を上演していました。
 ケラさんはカフカが好きなようで、以前も『カフカズディック』という作品で彼の生涯を題材にしていました。
 この二本の芝居のおかげで、なんとなくカフカの生涯は記憶していました。
 彼の作品は生前には殆ど評価されていなかったことや、父母がユダヤ人だったため、彼の死後、家族をナチスにより殺害されたことなど、彼の小説に感じる閉塞感、悲劇性は、彼の人生そのものにも共通しているのが皮肉だなとも思います。

 もうひとつ、『変身』と言えば、忘れられない小説があります。
 確か高校三年の頃に読んだので、もう30年以上前になるかな。
 かんべむさしさんの『氷になった男』という短編です。
 ある日目が覚めてみると主人公は氷になっていたという『変身』のパロディですね。
 主人公の名前がミズコール・サムサ。これに高校生だった僕は偉く感心しました。語呂合わせにしてもよくできている。
 主人公が自分の身体を少しずつ溶かしながら動いていくところなど、笑った記憶があります。
 まあ、当然最後には溶けてしまうという不条理な死が待っているんですけどね。 当時かんべさんはデビューして一年くらいでしょうか。こういうキレのいいパロディ短編を次々に発表していました。
 主人公にだけ重力が逆にかかるという話もあったな。
 筒井康隆の後継者のように思って、当時は熱心に作品を追いかけていました。 
 最近は、殆ど小説を発表していないようですが、どうしているのでしょうか。
 あの当時活躍していた日本のSF作家たちの作品が、何人かの作家をのぞいて書店でもすっかり姿を消しているのは、時代の流れとはいえ、寂しいものですね。


(更新 2010/3/26 )


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プロフィール

中島 かずき(なかしま・かずき)

 劇作家、脚本家。福岡県出身。1985年より劇団☆新感線の座付き作家に。「阿修羅城の瞳」「髑髏城の七人」などの物語性を重視したエンターテイメント時代活劇"いのうえ歌舞伎"を多く生み出す。「アテルイ」で第47回岸田國士戯曲賞受賞。コミック原作や、アニメ「天元突破グレンラガン」(07、09)脚本・シリーズ構成、「仮面ライダーフォーゼ」(11)メイン脚本など幅広く活躍。脚本を手がけた「真田十勇士」(演出:宮田慶子、主演:上川隆也)が8月から上演される

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