10月5日の夜、緒形拳さんが亡くなられました。

その夜、僕は原稿書きに煮詰まって、なんとなく『必殺必中仕事屋稼業』を観ていました。必殺シリーズの中でも一番の傑作で、ちょっとした時間に部屋で流して観返しています。

緒形さんが演じる"知らぬ顔の半兵衛"は、博打好きのそば屋の親父です。それがひょんなことから殺し屋稼業に足を踏み入れる。最初はアマチュア故の甘さもあるのですが、後半になるにつれ殺し屋としての過酷な運命を突きつけられていきます。仲間を失い愛する者とも別れ、それでも無様に生きていくことを選ぶラストシーンは、かっこよくふてぶてしく、でも切なく、必殺シリーズの美学の頂点の一つだと思っています。

何度観たかわからないそのシーンを観ながら「やっぱり緒形拳っていい役者だなあ」としみじみと思っていたのです。

初めて訃報を目にした時は信じられませんでした。そのあと、亡くなられるその頃、自分が緒形さんの作品を観ていたということに気づきました。虫の知らせと思いたいのはファンの思い入れであって、実のところはただの偶然でしょう。それでも、何か意味づけをしたいのは、あまりにも彼の死が突然だからでしょうか。

子供の時から好きな役者さんでした。 
『太閤記(たいこうき)』の秀吉に始まり、『必殺仕掛人』の藤枝梅安(ふじえだばいあん)、『風と雲と虹と』も、緒形さん演じる藤原純友(ふじわらのすみとも)パートの方が人間味があって好きでした。彼が仲間を失い、仇討ちという私怨(しえん)に走ろうとすることを別の仲間に諫(いさ)められた時「私怨なくしてなんの反逆よ!」と言うセリフなど今でもはっきり覚えています。

そういえば、羽野晶紀が民放のドラマで初めてレギュラー出演をした『愛はどうだ』では、緒形さんと絡むシーンが多く、彼とのラブシーンで、羽野がやりにくそうにしていると「横綱(羽野のこと。その時の役柄の髪型から緒形さんはそう呼んでいたとのこと)はこういうの嫌いなんだよな」と声をかけてくれて、スタッフにも説明して演出プランを変えてもらったと、当時羽野が嬉しそうに話をしていたのも思い出します。

一度一緒に仕事をさせてもらいたいなと思っていました。
なかなかいい機会がなかったのですが、積極的にお仕事もなさっているし、まだチャンスはあるだろう。5日の夜もDVDを観ながらそう思っていました。
こんなことならもっと早くにオファーをすればよかった。本当に残念です。

ご冥福をお祈りします。