【Vol.22】文筆家・甲斐みのりさん「大江戸骨董市」で、私だけのとっておきを探す |AERA dot. (アエラドット)

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日本最大規模の野外骨董市である「大江戸骨董市」。2003年から始まったこの市は、掘り出し物を探しに、国内外からやってくるたくさんのお客さんで賑わいます。今回は、旅や手みやげに関する数多くの著書がある、文筆家の甲斐みのりさんが、「大江戸骨董市」でとっておきのものを見つける楽しさについて語ります。

【Vol.22】文筆家・甲斐みのりさん「大江戸骨董市」で、私だけのとっておきを探す



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 日本国内でも海外でも、どこかへ旅に出たいと思ったとき、そこでなにかしらの“市”が行われていると知るのは、行き先選びの決め手となる。20代で初めて経験した海外旅行をフランスにしたのも、“かわいらしい雑貨”に夢中になり始めた学生時代から、いつかパリで蚤の市巡りをしてみたいと憧れていたから。当時はスマートフォンも翻訳機能アプリもない時代。言葉や数字を相手に奮闘しながら選んだ、お菓子の缶や刺繍入りのリボンは、今でも大事な宝物だ。

 こんなふうに市に思いを馳せたのも、北海道から東京観光へやってきた旅好きの友人との何気ないやりとりがきっかけ。夜の食事をともにしながら、昼間はどこへ行ったか尋ねると、一日の大半を東京国際フォーラムの「大江戸骨董市」で過ごしていたという。東京には国内外のあらゆるものが集まっているけれど、大江戸骨董市では、時代を超えた衣食住の道具や美術品を間近に見たり手にしたりすることができる。日常から離れて別の土地を目指すことだけが旅なのではなく、何十年、何百年のときを刻む骨董に触れることもまた旅の一つだと彼女が言った。

 灯台下暗し。これまでつい旅先ばかりを気にしていたが、自分が暮らす街にも心惹かれる骨董市がある。そう気づけたことは東京での暮らしにおける大きな収穫だ。  

 そうしてある日曜日、知らない街を目指すときのような胸の高鳴りを抱えて、有楽町の東京国際フォーラムの大江戸骨董市へと出かけた。

日本最大規模の露天骨董市・大江戸骨董市は、有楽町の東京国際フォーラムと、原宿の代々木公園ケヤキ並木で、朝9時(代々木公園は8時)から夕方4時まで開催されている。東京国際フォーラムは毎月第1・3日曜日に開催、代々木公園は不定期だが、公式のホームページでスケジュールを確認できる。出店数は約250店舗(代々木公園は約180店舗)。みな法令を遵守する骨董業者なので安心して買い物ができるのが、心配性の私には何よりありがたい。

 有楽町に到着したのは、市が始まる9時少し前。地下鉄の駅から地上に出ると、すでにどの店も準備が整い、開店直後の充実した品揃えを楽しむ客が早くも会場を行き来している。各店、テントを広げたり、テーブルや棚などを上手に組み合わせたりと、什器はまちまち。スペース内にみっちりものを積み上げる店もあれば、品数は少ないながら地面に敷いた布の上をセンスよく洗練された空間に仕上げる人もいて、ディスプレイも個性豊かで面白い。日本、アメリカ、ヨーロッパ、アフリカなどの、着物、家具、器、版画、玩具、アクセサリー……。店主それぞれの審美眼で選ばれた世界中の品が集まる景色の中には、慈愛を受けて輝く骨董の凛とした美しさと、売り手と買い手が互いを認め合っているようなおおらかさが漂う。あまりに自由で居心地よく、時間を忘れて心ゆくまで骨董と向き合った。

 1周目は目星をつけるため足早に全体をぐるりと、2周目から時間をかけて気になる店をじっくり。器とカゴと郷土玩具、それから猫モチーフに特に目がない。この日も最初に立ち止まったのが、猫の雑貨ばかりを集めた店。ポット、エプロン、大きな置物から小さなアクセサリーまで、猫尽くしで顔がほころぶ。「このポットはイギリスの有名なメーカーで、エプロンはアメリカのヴィンテージ」などと、店主と交わす会話も楽しい。出店者の多くが実店舗を持たず、各所の骨董市に出向く行商スタイルをとる。こちらの猫の店はウェブショップもあるそうで、帰ってからも商品をのぞく楽しみができた。

 途中、樽でもない、カゴでもない……、大きな木の塊を提げて帰路につく老紳士とすれ違う。あの木の塊はいったいどこからやってきて、これからどんなふうに使われるのか、果てしなく想像が広がる。白い麻のシャツに、赤いカシミアのベスト、ゆったりとしたトレンチコートを品よく着こなす紳士の部屋は、ステキなものに溢れているだろう。次第に骨董だけでなく、出店者や来場者にも興味が湧いてきた。

 ふと気がつけばフランス語を学ぶ同行の友人は、大量の“こけし”が詰まった袋を抱えたフランス人の青年と、フランス語で会話を交わしている。東京で働く彼は帰国の際、こけしを日本みやげにするのだという。ある店では、アメリカからやってきた旅行中の家族のうち父と2人の息子の男性陣が、ソフトビニール製の怪獣の人形を買っていいか、必死で母に掛け合う微笑ましい場面に出会った。大江戸骨董市は、骨董好きの日本人だけでなく、海外からの旅行者も夢中になれるワンダーランドだ。

 何時間も過ごした大江戸骨董市で、この日私が買い求めたのは、手のひらサイズの小さな雑貨二つ。日本中・世界中を旅した後のような、胸いっぱいの充足感とともに日々の暮らしへ持ち帰った。

文:甲斐みのり

文筆家。静岡県生まれ。大阪芸術大学文芸学科卒業。旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨、暮らしなどを主な題材に、書籍や雑誌に執筆。食・店・風景・人、その土地ならではの魅力を再発見するのが得意。地方自治体の観光案内パンフレットの制作や講演活動も行う。
http://www.loule.net/

写真:伊佐ゆかり
撮影協力:大江戸骨董市
https://www.antique-market.jp/

本企画は『東京の魅力発信プロジェクト』に採択されています。
このサイトの情報は、すべて2019年8月現在のものです。予告なしに変更される可能性がありますので、おでかけの際は、事前にご確認下さい。

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