奈良原一高の「王国」を解説。戦後を代表する写真家の初期傑作を知る貴重な機会 〈アサヒカメラ〉|AERA dot. (アエラドット)

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奈良原一高の「王国」を解説。戦後を代表する写真家の初期傑作を知る貴重な機会

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《「王国」より沈黙の園》1958年 (C)奈良原一高アーカイヴズ

《「王国」より沈黙の園》1958年 (C)奈良原一高アーカイヴズ

《「王国」より壁の中》1956-58年 (C)奈良原一高アーカイヴズ

《「王国」より壁の中》1956-58年 (C)奈良原一高アーカイヴズ

《「王国」より沈黙の園》1958年 (C)奈良原一高アーカイヴズ

《「王国」より沈黙の園》1958年 (C)奈良原一高アーカイヴズ

《「王国」より沈黙の園》1958年 (C)奈良原一高アーカイヴズ

《「王国」より沈黙の園》1958年 (C)奈良原一高アーカイヴズ

写真史上に名高い、奈良原一高の「王国」(1958年発表)の全貌を観覧することができる展覧会が、東京・竹橋の東京国立近代美術館で開催中です。この貴重な機会に際し、展覧会を企画した学芸員の増田玲さんから、展示構成の工夫点や鑑賞のポイントについて紹介いただきました。


 東京国立近代美術館では、現在「奈良原一高 王国」展を開催中です(2015年3月1日まで)。

 1958年発表の「王国」は、北海道の男子修道院に取材した「沈黙の園」と和歌山の女性刑務所を舞台とした「壁の中」という、それぞれ外部と隔絶された二つの空間を舞台とした二部構成の作品です。東京国立近代美術館は、2010年度に株式会社ニコンよりこの「王国」シリーズ87点の寄贈を受けました。今回の展覧会は、そのお披露目を兼ねて、この奈良原一高の初期の代表作に光を当てようというものです。

 「王国」は1958年に個展と雑誌グラビアで発表されたのち、1971年、1978年の二度、写真集にまとめられています。今回の展覧会で展示する87点のプリントは、そのうち完成版ともいうべき1978年版の写真集『王国』(朝日ソノラマ、ソノラマ写真選書9巻)の構成をほぼ踏襲するものです。

 展示は、写真集と同様、「沈黙の園」と「壁の中」という二つのパートに分けられ、展示順も基本的に写真集の編集に従うことにしました。つまり、写真集のページをめくっていくことで私たちが体験する作品世界を、展示空間を歩きながら体験していくことになります。

 もちろんこうした方針を採用したのは、元になる写真集が緻密に構成されているからですが、実際に展示をしてみると、あらためて奈良原が編み上げた写真集のシークエンスの見事さを再認識することになりました。というのも、机上のプランでは、壁面の都合に合わせて、写真の順番を入れ替える箇所をいくつか想定していたのですが、実際に写真を並べてみると、けっきょく元の順番を極力くずさないことがいちばんうまくいくのです。

 展覧会場では、それぞれの作品の左下に番号を付けています。これは写真集での掲載順による各イメージの作品番号です。番号を参照していただければ、写真集と順番が入れ替わっている箇所が確認できますが、展示順がほとんど写真集のとおりであること、そして入れ替えているところもごく小さな変更であることをご確認いただけると思います。

 奈良原一高といえば、その独特の映像感覚で知られている写真家ですが、今回の展覧会では、個々のイメージの持つ魅力とともに、奈良原がいかにこの「王国」という作品を編み上げているかという点にも、ぜひご注目いただきたいと思います。二つのパートはそれぞれ印象的な導入を経て、いくつかの場面をめぐって展開し、そしていずれも暗示的な結末へと向かいます。その編集は映画的ともいうべきものです。

 そうした作品の構成をめぐる鑑賞のポイントを一つだけ紹介しておきましょう。第1部「沈黙の園」は、遠景に舞台であるトラピスト修道院の建物を配し、手前には修道院で飼われている乳牛をアウトフォーカスでとらえた印象的な写真で始まっています。これに対し、第2部「壁の中」の冒頭には、牢獄の扉に開けられた監視窓からのぞく看守の眼をとらえた写真が置かれています。

 もの言わぬ存在である「牛」は、鑑賞者との対話を拒否するように画面の真ん中にたたずみ、アウトフォーカスであるために、その眼も黒いもように埋もれて定かではありません。それはこれから導かれる空間(彼方に見える修道院の建物)が、ひたすら沈黙のうちに、眼に見えぬ存在である神との孤独な対話を中心として生活が営まれる場であることを暗示します。それに対し、第2部の冒頭に置かれた写真の、閉じられた扉や看守の鋭い眼は、いわば可視化された権力そのものであり、刑務所という空間、ひいては現代社会を支配する抑圧の構造を象徴しています。

 こうしたファーストショットから、どのようなシークエンスが展開されていくのか。またこの二つのイメージが見事な対となっているように、この作品にはいろいろな仕掛けも組み込まれています。イメージの連鎖による巧みな構成の背後に、奈良原一高が浮かび上がらせようとしたものとは何か? ぜひ、展覧会場で「王国」の作品世界を読み解く楽しみを味わっていただければと思います。

増田玲(企画者、東京国立近代美術館)



■奈良原一高 王国
会場:東京国立近代美術館 ギャラリー4 (2F)
開催期間:2014年11月18日(火)~2015年3月1日(日)
開館:10時~17時(金曜日は~20時) ※入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日(11月24日、2015年1月12日は開館)、11月25日(火)、年末年始(12月28日(日)~2015年1月1日(木・祝))、1月13日(火)
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル、8時~22時)



<講演会>

増田玲(東京国立近代美術館主任研究員/展覧会企画者)
日程:2014年12月13日(土)
時間:14時~15時30分
場所:地下1階講堂
13:30開場、聴講無料、申込不要(先着150名)


<ギャラリー・トーク>

小林美香(東京国立近代美術館客員研究員)
日程:2015年1月16日(金)

増田玲(東京国立近代美術館主任研究員/展覧会企画者)
日程:2015年2月6日(金)
いずれも18時~19時、会場にて。参加無料(要観覧券)、申込不要


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