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政府は、経済はよくなっていると言う。確かに株価は上がっているものの、我々の生活実感はない。実際のところ、経済はどうなっているのか?
日本経済は1990年代を境に大きく変貌しているものの、経済政策の考え方はそれに追いついていない、と大阪大学社会経済研究所特任教授の小野善康は語る。2018年7月、小野教授が自著『消費低迷と日本経済』(朝日新書)でつづった内容を中心に、シンポジウムを開催した。日本経済の現状と経済学の考え方、政策のあるべき姿とは。
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私は「お金とモノとの相対的な関係から現代の経済を考える」経済理論を提唱しています。
日本経済はある時期を境に劇的にその様相を変えました。それは日本社会そのものの変化がもたらした結果です。
私が小学生から高校生だった1960年代から70年代の日本は高度成長期で、現在で言えば中国など新興国の経済の状態に近い成長社会でした。
当時は日々生活が豊かになっていく実感がありました。最初は貧しくて、家には掃除機や冷蔵庫もなく、お風呂もありませんでした。それが80年代にもなると、誰もがさまざまな電化製品を持ち、車も持っている、今とほとんど変わらない社会になっていきます。
高度成長期とは欲しいものがたくさんある一方で、それを供給するための生産力が足りない時代です。この頃、お金とは何かを買うためのもので、もし貯めているとしたら、それは欲しいものを買うためでした。典型的なのがテレビです。私が子どもの頃はほとんどの家にはテレビがなくて、お金が入ってくると大喜びでテレビを買ったものでした。
2010年代の今、日本は既に成熟社会に入っています。生産力は60年代当時と比べて格段に大きく、何か需要があればすぐにそれを満たすことができます。どの家でも必要な家具や家電は揃っていて、他に何かほしいモノがあったら、すぐ買えるお金も持っています。
こういう状態の下では、60年代の頃に人々が感じていたほど強烈に「絶対にこれが欲しい」というモノは残っていません。テレビにしても、今自分が持っているものより大きい製品が出てきたけれども、それで生活が大きく変わるわけでもないから、「まあ、今のままでいいや」と思えてしまう。