この2つのニュースは、日本、中国、ドイツという各国が技術開発競争を行っているという受け止め方ができますし、もっと具体的には「トヨタ=ウーバー」の提携関係と、「BMW=バイドゥ(百度)」のチームがお互いに対抗している構図という見方もできます。

 ですが、そうした受け止め方には決定的に欠落している部分があります。

 問題は、どんな自動運転を目指して、どんな実証実験をするのかという点です。

 現在、自動運転の開発が進められる中で、最も難しく、最も重要な課題は、「人間と機械(AI=人工知能)の共存」という問題です。

 現在のAIは、信号を無視したり、横断禁止の場所を平気で渡って来るような、歩行者の行動を理解することはできません。また車両に搭載したミリ波レーダー、レーザー照射型センサー、カメラからの入力情報などを使って、歩行者を歩行者として100%認識することもできません。3月にヴォルボ=ウーバーの試験車が、アリゾナ州テンペで起こした事故は、正にこの問題を明らかにしてしまったのです。

 では、どうやって自動運転を可能にするのかというと、3つの対策が考えられています。1つは歩行者に端末携帯を義務付けて「人車間通信(V2P)」で相互に事故を回避するという考え方です。2番目は、自動運転車だけでは能力不足なので、交差点などインフラ側にカメラやセンサーを充実させて事故を防止するというアプローチです。3番目は、この際、機械には理解不能な行動をする「人間」というものは、自動車から隔離しようという発想です。

 この観点から、先ほどのニュースを振り返るのであれば、中国の場合は「自動運転車のモデル都市の建設」を目指していますから、この3つの対策を徹底して取ってくることが考えられます。恐らく3番目の「車道への歩行者の接近禁止」なども実施するに違いありません。そうした都市全体から自動運転に最適化を図るというモデルが実現するのであれば、ドイツ勢が興味を持つのも当然と言えます。

 一方で、トヨタが五輪選手村などで試験走行させる「eパレット」の場合は、もっと穏やかな人間とAIのコミュニケーションや共存ということが志向されるのではないかと思われます。

 いずれにしても、自動運転というのは、人間と機械が共存する大胆な実験であると同時に、一歩間違えば人命が関わるという危険性も持ち合わせています。その意味で、過去に実現されたコンピュータ技術によるイノベーションとは、全く異なる社会的認知が必要です。

 そうした議論をスタートするためには、何よりも透明性が大切です。また国境を超えたディスカッションを続ける中で、世界標準となる制度インフラを「みんなで作って行く」というオープンな姿勢が何よりも必要です。本書が、そうした議論の一助となればと思っております。(寄稿/冷泉彰彦)

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