まずは欧州のイギリス・アイルランドから。現代の欧州競馬を語るうえでまず触れなければいけないのが名種牡馬ガリレオだ。自身も大種牡馬サドラーズウェルズを父に、凱旋門賞馬アーバンシーを母に持つ超良血馬で、現役時代には英愛ダービーなどを制したガリレオ。種牡馬入りしてからはその良血をいかんなく発揮して名馬を次々に送り出し、2010年からは8年連続で英愛リーディングサイアーに輝いている。フランケルら息子たちも種牡馬として成功しており、ニューアプローチおよび今年の英ダービー馬マサーで親子3代の英ダービー制覇という偉業も達成した。

 2017年にガリレオ産駒が稼いだ賞金は、『Arion Pedigrees』によると英愛合計で約1245万ユーロ(約16億2000万円)。ディープインパクトの半分にも及ばないが、これは前記したように日本と欧州の賞金格差によるもの。2位ダークエンジェルの約2倍を稼ぎ出しているように、欧州ではガリレオに勝る種牡馬は存在しないのが現状だ。すでにガリレオ系とも呼べる血脈を確立しており、今後も長きにわたって欧州競馬の歴史に名を残し続けるだろう。

 ではアメリカとカナダを含む北米はどうか。『Bloodhorse』によると、2017年の北米リーディングサイアーはアンブライドルズソングで、収得賞金は1853万2448ドル(約20億6000万円)。ただしこの数字には、突出した高額賞金レースによるトリックがある。つまり、総賞金1200万ドルの世界最高賞金額レースとして2017年に創設されたペガサスワールドカップと、総賞金1000万ドルのドバイワールドカップを連勝したアロゲートの存在だ。1頭で約1300万ドルを稼いだアロゲートを除くと、アンブライドルズソングのリーディングは40位前後まで急落してしまう。1頭の名馬を奇跡的にでも輩出すればトップになり得る収得賞金だけでは種牡馬の真の価値は計りきれないという好例だろう。

 昨年のアンブライドルズソングを例外とすれば、近年のアメリカ種牡馬で傑出した存在だったのはタピット。コンスタントに名馬を輩出して2014年から3年連続で北米リーディング総合1位の座を占めていた。ただし昨年は主要G1を勝つ馬が少なかったこともあって5位に終わっている。

 このように、種牡馬事情は各国によってさまざま。収得賞金ならばディープインパクトをはじめとした日本の種牡馬たちが恵まれた環境で世界上位に多く食い込んでおり、欧州では絶対王者ガリレオが堂々と君臨。高額賞金が一部のレースに偏っている北米では大物産駒による一発逆転もあり得る。

 なお日本関連でいえば、今年はディープインパクト産駒のサクソンウォリアーが英2000ギニーを、スタディオブマンが仏ダービーを制しており、将来の欧州での種牡馬入りが見込める。彼らが欧州リーディングサイアーに輝く将来を夢見るのも競馬の浪漫ではなかろうか。(文・杉山貴宏)