

肖像権への配慮や、法律・条例を守ろうという遵法意識は大切なことだが、撮影愛好家を取り巻く環境は決していいものではない。SNSでの「炎上」事例や編集部に寄せられた声を精査すると、法律や条例に対する誤解や無知、「ゆがんだ正義」の存在が浮かび上がってくる。アサヒカメラ特別編集『写真好きのための法律&マナー』では、写真家・大西みつぐさん、弁護士・三平聡史さん、東京カメラ部・塚崎秀雄さん、アサヒカメラ編集長・佐々木広人の4人で座談会を開催。被写体と撮影者の「ほどよい距離感」について、3回に渡ってお届けする。
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佐々木 今回はさまざまな事例を通して、撮影者と被写体の「ほどよい距離感」とは何なのかを探っていきたいと考えています。まず、はじめに挙げるのが、数年前、本誌の月例コンテストに掲載されたコスプレーヤーの変身中の写真です。これを見た人が誌面の画像をツイッターにアップして「私だったらこんなシーンは撮られたくない」と投稿しました。
三平 いきなり脱線しますが、このツイートは誌面を写真に撮っていますけど、引用の要件を満たしておらず、無断転載になりますね。本人は一応、問題提起のつもりで悪気はないと思うんですけど。
佐々木 このツイートをきっかけに「これはひどい」「盗撮だ」などといろいろな声が上がり、炎上しました。
大西 「こんなシーンは撮られたくない」というのはとても正直な感想ですよね。
佐々木 おそらくこの人はごく私的なつぶやきをしただけだったと思うのですが、コスプレ愛好家の間で話題になりまして……。
大西 祭りなどでもよく見られますが、この手の舞台裏は、アマチュアであれば撮りたいと思う場面でしょうね。でもコスプレの場合、法律的にアウトかセーフかではなく、グループ内の掟のようなものがありますからね。
塚崎 コスプレは一種の変身願望で、裏側は見せたくないという意識が強く働きます。そこで、「望遠で撮ってはいけない」「ちゃんと許可を取ってから撮る」というように独自ルールが形成されていきました。この写真は、独自ルールを破ったうえに、見られたくない場面を撮られた、ということで二重の衝撃があったんだと思います。