星稜は、8点差をはね返し、奇跡の逆転サヨナラ勝ちで甲子園の切符を手に入れた (c)朝日新聞社
星稜は、8点差をはね返し、奇跡の逆転サヨナラ勝ちで甲子園の切符を手に入れた (c)朝日新聞社
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 今年も各地で地方予選が始まり、夢の甲子園出場へ向け球児たちが熱い戦いを続けているが、懐かしい高校野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「思い出甲子園 真夏の高校野球B級ニュース事件簿」(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、夏の選手権大会の予選で起こった“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「奇跡の大逆転編」だ。

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 1998年の秋田県大会決勝、金足農vs秋田商は球史に残る壮絶な打撃戦となった。

 先手を取ったのは金足農。2回に2点を先制すると、3回にも4点を追加、6対0とリードを広げた。

 これに対し、2年連続の甲子園を狙う秋田商も、準決勝までの4試合で53得点を記録した強力打線が売り。その裏に1点を返し、反撃の狼煙を上げると、3回に3点を加えた後、5回1死から8連続安打など打者16人の猛攻で一挙12得点。16対6と10点差をつけた。コールドが適用される準決勝までなら、この時点でゲームセットである。ベンチに戻ってきた金足農ナインの中には泣いている者もいた。

 だが、ここから奇跡が起きる。絶望的な大差で逆に力みが消えた金足農は、7回に菅原義人のタイムリーなどで2点、8回に中川大輔のランニング満塁本塁打で4点とじわじわ追い上げる。12対16で迎えた9回も2死から得点を重ね、5点目の押し出し四球でついに17対16と逆転した。

 その裏、秋田商も2死一、三塁と反撃したが、あと一打が出ず、涙をのんだ。

 同年は青森県大会2回戦、東奥義塾vs深浦で史上最多の122得点が記録され、「どうして93対0の時点で5回コールドにしなかったのか(当時の青森は7回コールド制)」と批判されたが、5回の時点で10点差をつけられた金足農の大逆転劇は、別の意味でコールドのあり方を考えさせられた。

 2002年の大分県大会2回戦、緒方工vs中津北は序盤から追いつ追われつの展開となったが、5回以降小刻みに加点して7対5と優勢の緒方工が9回表、6四球などで一挙7点を追加した。

 14対5。これで勝負あったかに思われたが、その裏、中津北の怒涛の大反撃が始まる。

 試合終盤に降りだした雨の影響でグラウンドがぬかるみ、8回まで要所を締めていた衛藤貫一が制球を乱したことも猛攻に拍車をかける。3四球で2死満塁のチャンスをつくると、9番・山内大樹が右前に2点タイムリー。さらに5連続四球とエラーで5点を加え、2点差まで追い上げた。

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球児の強い気持ちが奇跡を起こす