「野鳥撮影」について、ある議論が巻き起こっている。第21回総合写真展の受賞作品の一つに、湖面から鳥の群れが一斉に飛び立つ様子を撮影したものがあったが、実際は「音と光で刺激を与えて、意図的に飛び立たせたものだった」というのだ。人物が被写体なら肖像権などを盾に撮影を拒むこともできる。だが、抗弁もせず、黙々と撮影愛好家を受け入れ、自分の身を汚し、時に命を絶つのが自然界の生き物である。発売中のアサヒカメラ特別編集ASAHI ORIGINAL『写真好きのための法律&マナー』では、野鳥撮影のマナーについて「鳥の生態を知らない愛好家の問題」を特集している。人気撮影地でいま、何がおきているのか。いま一度、この問題を検証したい。
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野鳥撮影の人気が高まるにつれ、さまざまなトラブルが起きている。野鳥や自然の環境保護を目的とし、バードウォッチングの普及活動などを行っている公益財団法人日本野鳥の会が、2012年に全国90 支部にアンケートを実施したところ、鳥や周辺環境に影響を及ぼした可能性がある事例が65件報告された。たとえば――。
■サンコウチョウの営巣中に、同じ写真を撮影させまいとする写真愛好家が巣を枝ごと撤去する事件が起きた。巣の前で陣取る人たちに注意をしても、いっこうに減らない。
■畑にタカが舞い降りたのを見つけた写真愛好家が近くで撮影しようと狭いあぜに車を乗り入れたところ、あぜが崩れて車が動けなくなり、農家にも迷惑をかけた。
■珍しいモズが確認されて多くの人が集まったため、観察ルールを設けたところ、「おまえの鳥か? 何の権利があって俺に指示をするのか?」とクレームをつけられた。
「野鳥観察には鉄道と同じように、鳴き声を録音する、旅をしながら鳥を観察する、鳥の図鑑を集める、などと幅広い楽しみ方があります。撮影はその一つです」
そう話すのは、日本野鳥の会普及室室長の富岡辰先さん。近年のトラブルは、野鳥の生態を知らない写真愛好家の急増にあると感じている。