「オートファジーの仕組みの解明」で、2016年にノーベル医学生理学賞を受賞した、大隅良典・東京工業大学栄誉教授。大学時代は「真面目な学生ではなかった」と振り返る大隅さんは、いかにしてノーベル賞を受賞する研究者になったのか。その信念と、現在の日本の研究への危機感を、現在発売中の『国公立大学 by AERA 2018』(朝日新聞出版)に語った。その一部を紹介する。
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横浜市郊外のすずかけ台キャンパスに、大隅研究室はある。植物がたくさん自生するこのキャンパスを歩くのが好きだという大隅さん。研究室がある棟の窓から外を見て、こう語り始めた。
「たとえば、あそこに生えている草を見て『どうして何十種類もの植物があるのだろう』『葉っぱが光を浴びられるようにうまく展開しているのはなぜだろう』と考えてみる。そうすると、おもしろいことっていっぱいあるんですよ」
人が目をつけないものを丹念に考察し、新しい何かを見つけ出す。それが、大隅さんの研究スタイルだ。約30年前、細胞内の“ごみ溜め”と考えられていた液胞に注目し、来る日も来る日も顕微鏡を覗き続けた。それが、のちのノーベル賞につながるオートファジー現象の発見へとつながった。
はやりに流されず、常に人と違う道を歩んできた。
「科学をするうえで、人と違うということは決定的に大事なことなんです。人と同じところに、発見はないですから」
自らが切り開き、今日では世界中の研究者が取り組むオートファジー研究も、「今ははやりになっちゃって、ちょっと居心地がよくないんです」と笑う。
「人と違う研究をするのはリスクがあるかもしれないし、認めてもらうのに時間がかかるかもしれない。でも、研究はあるときにポンと化けることがあり、それは誰にも予測できません」
■日の当たらない研究を 支援する財団を設立
日本の研究現場では、ITや再生医療など、人気のある領域に研究者や資金が集中する傾向が強い。研究が多様性を失っている現状に、危機感を抱く。