スタッフは彼の話をじっくり聞き、その言い分を受け止めた上で、彼に取材をさせてほしいという要求を出した。そして、今回の企画の実現に至ったのだ。彼は、本名と顔だけを伏せた状態で取材に応じ、彼自身の言葉によって、事件の真相や、彼がその後どう生きていたのか、ということが初めて明かされた。
電話を受けたスタッフが、やりとりを通して彼に信頼されていなければ、こんな番組を作ることはできなかっただろう。人間という生身の存在を扱うドキュメンタリー番組では、作り手の人間力が試される。
今回の番組が、日曜の昼間という時間帯にもかかわらず、高い視聴率を記録して、並びでトップを取ったというのはフジテレビにとって思わぬ朗報だろう。超高齢社会が訪れ、視聴者の高齢化もますます進んでいる中で、ガヤガヤと騒がしいバラエティ番組よりも、地に足のついたドキュメンタリー番組が見たい、という需要は高まっているはずだ。
実際、10月7日に放送されたドキュメンタリー仕立ての『衝撃スクープSP 30年目の真実~東京・埼玉連続幼女誘拐殺人犯・宮崎勤の肉声~』という番組も好評だった。これは「東京・埼玉幼女連続誘拐殺人事件」を扱ったもの。フジテレビの報道局が独占入手した犯人の肉声音源を再現ドラマに組み込んだ斬新な演出が話題になった。
フジテレビは、長く続く視聴率の低迷にあえいでいるが、独自の伝統があるドキュメンタリー番組の好調ぶりは、今後のための明るい材料だと言えるのではないだろうか。(ラリー遠田)