『この世界の片隅に』Blu-ray&DVD発売中 発売・販売元:バンダイビジュアル (c)こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
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昭和のくらし博物館で行われた鼎談。左から浦谷千恵さん、片渕須直さん、小泉和子さん(撮影/写真部・岸本絢)
昭和のくらし博物館で行われた鼎談。左から浦谷千恵さん、片渕須直さん、小泉和子さん(撮影/写真部・岸本絢)

 興行収入26億円を超す大ヒットとなり、第40回日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞をはじめとして数々の映画賞を受賞したアニメーション映画「この世界の片隅に」。先日行われた韓国の映画祭・第19回プチョン国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門でもグランプリを獲得するなど、世界でも注目されている。

【昭和のくらし博物館で行われた鼎談の様子はこちら】

 今回はその監督・片渕須直さんと、監督補/画面構成・浦谷千恵さん、そしてふたりが映画を制作するにあたってその著書等を参考にしていたという生活史研究家・小泉和子さんの鼎談(ていだん)が実現。映画の制作秘話などについて、たっぷりと話を聞いた。

*  *  *

「映画の中で、主人公のすずさんが石垣の壁に荷物を一度乗せてから背負うでしょう。あれを観て驚きました。私たちも戦争中はしょっちゅうなにかを背負わなければならなかったんです。そうすると腰を痛めないために、ああやって背負うんですね。この場面では荷物の海苔は軽いので背負い直すためだけでしょうが、そういう動作もきちんと描き入れている点に感心しました」

 この時代ならではの何気ない所作が「この世界の片隅に」では、正確かつ丁寧に描かれていることに感心したと話すのは、小泉さんだ。

「映画やテレビを観ているとこれは違うなと思うことがよくあるんです。例えば洗濯板の使い方。みんなゴシゴシとこするけれど、本当はあの上で柔らかく揉むものなんですね。あんなことしたらすぐに布が擦り切れちゃいますから」と、小泉さんは笑った。

 この日3人が集まったのは、東京・大田区にある「昭和のくらし博物館」。小泉さんが昭和のくらしを今に伝えるため、昭和20年代に建てられた住居をそのまま博物館にした場所だ。実は、片渕さんと浦谷さんはすでに何度も足を運んでいるという。

 片渕さんは、「前作の『マイマイ新子と千年の魔法』という映画を作ったときに、そこに出てくる昭和30年のくらしと千年前のくらしをきちんと描きたいと思って資料を探していたんです。そうしたら『くらし』に関する資料で参考になるものは、昭和についても千年前についても、両方で小泉先生が書かれているものに行きあたってしまって……」と、持参した小泉さんの著書をずらりと並べた。

「ある時、映画の製作や宣伝のスタッフとここ(昭和のくらし博物館)で待ち合わせをしたことがあったんです。2階の子供部屋で『まだ◯◯君、こないね』なんて話していたら、彼がやって来て、上の窓から『おーい』って手を振って出迎えて。それが本当に自分の子供時代そのままで、すごく懐かしくて」(片渕さん)

 そうした佇まいのある場所に身をおくことも、作品づくりには大事なのだという。

 今年8月に発売された『くらしの昭和史 昭和のくらし博物館から』(小泉和子著)では、小泉さんの家族のエピソードを交え、写真や資料とともに昭和の庶民の生活が詳細に記されている。本書を片渕さんは「これまでの小泉先生のご著書を、経糸でつづるような本」だと評する。

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