次に多かったのが、後援会事務所での滞在(約11時間、12.6%)。それから、▽街頭でのあいさつ・練り歩き(約8時間45分、10%) ▽個人演説会(約7時間5分、8.1%) ▽街頭演説(約5時間20分、6.1%) と続いた。密着した時間で行われたすべての運動を記録できたわけではないが、選挙カーでの活動は、移動に必要とはいえ、重きが置かれていたようだ。

 そして、候補者の移動経路と有権者の自宅との位置関係、有権者がどの候補者に投票したかを突き合わせた結果、選挙カーが自宅の近くを通った人ほど、男性候補者へ投票する傾向が見られたのだ。選挙カーが自宅のすぐそばを通った人が男性に投票した割合は平均の約2倍だったのに対し、1キロ以上離れた人は平均の約6分の1だった。

 併せて、移動経路と自宅との位置関係が、有権者の男性候補者への好感度アップにつながるかどうかを調べたところ、大きな違いは見られなかった。三浦教授は「今回のデータだけでは原因を特定することはできませんが、好きという感情と、投票とはまた別なんでしょうね」と話す。

 三浦教授によると、選挙の研究は数あれど、地方選挙を題材に、候補者に密着して有権者との位置関係から投票行動を調べた研究は、かなり珍しいという。今回の研究結果は17年4月7日、日本社会心理学会の機関誌「社会心理学研究」電子版に掲載され、反響を呼んだ。

 今回の研究で候補者に密着した関西学院大大学院文学研究科博士課程後期課程2年、中村早希さんにも話を聞いてみた。男性候補者の陣営を手伝いながら記録を取り続けたが、候補者への密着は「思っていたよりもハードワークだった」という。

「候補者は、隙あらばあいさつするなどして、時間という時間は何かしらの活動をしていました。移動などの隙間時間にその内容をメモしていたのですが、なかなか時間がとれずまとめるのが大変でした」(中村さん)

 研究結果については、「道という道に入っていって支援を訴えたが、好感度に影響していないことが意外だった」という。「コストをかけた割には影響力が小さい」と、限られた街頭での活動時間の中で、政策を訴えることの難しさや、選挙制度そのものについて考えさせられたという。

 三浦教授は「今回の研究結果を選挙全体に応用することはできないが、選挙運動とそれが有権者に及ぼす影響についていろいろな議論が深まればやったかいがあるし、うれしい」と話す。人によっては「うるさい」と感じる選挙カー。しかし、効果がないわけではないらしい。(ライター・南文枝)