その後も、ZARDの撮影は自然体であることが徹底された。

「坂井さんは、撮影されるのが苦手というか、レンズを向けられると緊張するタイプでした。プロのフォトグラファーが正面からねらって撮った写真よりも、スタッフが何げなく撮った素顔のほうが魅力的。オフショットの女王でした。彼女の写真はまるで映画のワンシーンです。ちょっとしたしぐさに憂いがあって、はかなさや切なさが感じられます。当時はデジタルカメラの時代ではなかったので、スタジオで撮影したスナップは、一枚残らずサービスサイズでプリント。すべてを長戸プロデューサーがチェックして、セレクトしていました」

 36枚撮りのフィルムを何本も使い、プリントは段ボール箱2つ分の量になることもあった。こうした作業をくり返し、鈴木氏をはじめスタッフは、ZARDのイメージを共有していった。

「1992年の3枚目のアルバム『HOLD ME』の時に、長戸プロデューサーがイメージするZARDが見えた気がしました。僕も、カメラマンも、誰の主観も入らない坂井さんを意識するようになります。その感覚をみんなが共有しました。著名なフォトグラファーに撮影を依頼したら、もちろんすばらしい写真があがってくるのですが、その方の意見や好みをゼロにしていただくわけにはいきません。だから、写真はスタッフが撮ることが多くなりました。例えば『負けないで』もそうですし、『ZARD SINGLE COLLECTION ~20th ANNIVERSARY~』のジャケット写真は僕が撮影したものです」

 実際、オフの坂井さんは、著名人特有のオーラを見事に消していた。三人姉弟の長女の坂井さんは面倒見がいい“きれいなお姉さん”といった雰囲気で、バレンタインデーにチョコを配ったりとスタッフたちにもよく気を配り、意外に男前な一面もあった。

「ロンドンでの撮影終わりにスタッフみんなでカラオケに行った時も『◯◯さんは◯◯歌ってみて』『君は◯◯』とテキパキと仕切っていましたね。坂井さんは結局、歌いませんでしたけど……。撮影現場でトラブルが起こった時、見かねた坂井さんが『私が責任者と話そうか』とか言い出して、もちろんそんなことはさせられませんからスタッフが慌てて『いやいや』と止めたりすることもありました(笑)」

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