政府は8月17日、尖閣諸島に上陸した香港の活動家らを不法入国で強制送還することを決めた。言うまでもなく、"最短"で決着をつけることを優先させた結果である。

 抗議船で海を渡ってきた香港の活動家らは「終戦の日」の15日夕、尖閣諸島の魚釣島に上陸し、中国国旗と台湾旗を掲げた。島で待ち構えていた海上保安庁職員と沖縄県警の警官、入国管理局職員ら約30人が、退去の警告に従わなかった5人を出入国管理法違反で逮捕。逃げようとした抗議船にも海上保安官が乗り込み、さらに9人を逮捕した。海保関係者が振り返る。

「こうした事態を見越して、実は今年に入って海保、警察、入管の混成チームが訓練を続けてきました。すでに3回ほど出動していますが、今回はようやくその成果が出た。相手にけがをさせないという政府の方針で上陸を許し、彼らのいい宣伝になってしまったが、そこからはマニュアルどおり。中国国旗もわずかの時間しか掲げさせず、すぐに警告して逮捕しましたから」

 これら事前準備のたまものなのか、今回の政府の対応について、専門家たちの間では「うまくやった」と評価する声が多い。辛口で知られる元外交官の佐藤優氏も「95点」と高評価。

「国際法上、他国の領海内でも船舶の航行は許されており、上陸前に下手に妨害したら 『上陸する気はなかったのに、不当に弾圧された』と宣伝される可能性があった。その後の手続きは、日本の国内法に基づいて処理したことが重要。先例に照らしても、強制退去で問題ない」

 中国に詳しいジャーナリストの富坂聴氏も、

「政府は中国の外交部と水面下のやり取りを重ねており、"落としどころ"が事前に合意されていたようです。あまり注目されていませんが、事前に警察官と海上保安官が尖閣諸島に上陸して待ち、法を執行したという先例をつくったのは大きい。結果的に、得をしたのは日本側ではないか」

※週刊朝日 2012年8月31日号