シーズン終盤で調子を上げ、オフには激しいトレーニングを積んだディミトロフは、高いモチベーションと好調を維持し今大会を迎えていた。

 そのディミトロフの変化が、錦織を戸惑わせる。「相手は以前よりも守備が良く、フォアハンドを多用し攻撃的になっていた」と感じた錦織は、立ち上がりからブレークのチャンスをつかむもモノにできない。逆にディミトロフは、危機を切り抜けるたびに「カモン!」と叫んで自身を鼓舞し、数少ない好機をつかむ。第1セットは2-6で、錦織が奪われた。それでも第2セットは逆に、序盤の危機を勝負強く凌いだ錦織が、怒とうの5ゲーム連取で奪取。試合の流れと勝者の権利を、手中に収めたかに思われた。

 だが、第2セットで覚えた臀部の痛みが、最終セットのプレーに陰を落としただろうか? 終盤で重ねた僅か2本のミスショットが、試合の趨勢を決定付ける。試合が進むにつれ威力と精度を増す相手のサーブにも、反撃の芽を摘まれた。

 初めて決勝に進んだこの開幕戦で錦織が示したのは、昨年積み上げた自信と実績のその先で、若手の挑戦を退け、ワウリンカのような実力者をも打ち破る地力をつけたこと。同時にディミトロフや、同大会でラファエル・ナダルを破ったミロシュ・ラオニッチらも、錦織と並び時代を動かす原動力となりえることだ。

 一方、同じ週にカタールで行われたもう一つの開幕戦に目を向けると、そこでは世界1位のアンディ・マリーと2位のノバク・ジョコビッチが3時間近くの死闘を決勝で繰り広げ、この双璧が圧倒的な存在であることを改めて印象付けた。

 果たして今シーズンも、互いを高め合うマリーとジョコビッチがテニス界を統べるのか? あるいは錦織ら現在25~27歳の一群が、世代交代を成すのか? その問いに対する一つの答えは、16日に開幕する全豪オープンで示されるだろう。(文・内田暁)

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