では青写真を描き続けるためには、どういう体制で何をすれば良いのでしょうか。まず、通常業務から切り離す形で、青写真を描くことに専念できるチームを作るべきでしょう。うちの会社にそんな余裕はないよ、と思われる方も多いでしょうが、そこは会社としてきちんと保険をかけるか、かけないかの判断です。かけると決めたら、本気でやらなければ意味がありません。チームには経営層、ミドル層、若手層の3階層からそれぞれ人を集める必要がありますが、特に重要な鍵を握るのはミドル層です。

 彼らの仕事は、青写真を描くためのワークショップを重ねることです。ここでいうワークショップとは、単なる従来型の「企画会議」とは全く違います。いかに良いテーマを設定し、議論のプロセスをコントロールして、イノベーションと呼べるアイデアを生み出していくかが非常に重要です。i.schoolで学生たちは、その方法論を学んでいるわけですが、こうした手法は新しいものなので、ミドル層にとってもそれを新たに学ぶ場が必要でしょう。さらにミドル層は、ワークショップで出てきた未来の商品・サービスのアイデアを、磨き上げて質を高め、経営層が納得する形で提示する。そうした能力も必要になります。

 日本の産業界には、イノベーティブな事業を生み出せるミドル層を育成するという発想がありませんでした。これまで必要とされなかったので無理もありませんが、早急にトレーニングプログラムを作って、育成を始める必要があると思います。

 イノベーションを生み出すというと、天才でなければできない、と思われがちですが、英語と同じで、訓練すれば普通の人でもできるようになるものです。英語も、母語でない我々が学ぶときには、文法から始めますね。ワークショップというのは、イノベーションにおける文法のようなものを学ぶ場なのです。英語を話せるようになると嬉しいのと同じで、新しいアイデアを思いつけるようになると嬉しいし、何より楽しい。ですから、企業の中で働いている多くの日本のビジネスパーソンにも、イノベーションを生み出すことに是非、積極的にチャレンジしてほしいですね。そうしてノウハウが積み上がっていけば、日本の大企業から破壊的イノベーションを起こすことは、決して不可能ではなくなるはずです。(取材・文/石臥薫子)

※『イノベーションファームって、なんだ?!』より