ジャニス・ジョプリンの27年間の人生と、その生きた時代、彼女が愛した音楽をテーマにしたドキュメンタリー作品『ジャニス : リトル・ガール・ブルー』を試写会で見ることができた(今年9月から渋谷のシアター イメージフォーラムなどで全国順次公開予定)。監督は、2006年の『フローム・イーブル~バチカンを震撼(しんかん)させた悪魔の神父~』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされたエイミー・バーグ。ちょうどジャニスが亡くなったころに生まれた彼女が、すでによく知られた伝説や逸話もきちんと追いながら、家族の手もとに残された手紙などを生かし、新たな肖像を描き上げている。
ジャニスの原点は、テキサス州東部の都市ポートアーサー。容姿にコンプレックスを感じ、それが原因でしばしばいじめを受けていたという彼女は、そういった暮らしのなかでオデッタやベッシー・スミスなど、当時の普通の少女たちはまったく興味を持たなかったに違いない女性シンガーの歌と出会い、強いインスピレーションを与えられる。それはある種の救いでもあったのだろう。
その音楽の力がジャニスをサンフランシスコへと向かわせ、やがて彼女は、典型的なヒッピー・バンド、ビッグ・ブラザー&ザ・ホールディング・カンパニーと出会う。そして、67年夏の、モンタレー・ポップ・フェスティヴァルでのあの伝説的なライブ。大きな時代のうねりのなかで、ジミ・ヘンドリックスらとともに一夜にして巨大な存在となった彼女は、しかし、周囲の人たちの思惑もあって仲間たちと切り離され、名声の代償として孤独を深めていく。そして、ウッドストックがあり、グレイトフル・デッドやザ・バンドとのフェスティヴァル・エクスプレスがあり、最後のバンド、フル・ティルト・ブギーと『パール』のレコーディングをはじめた彼女は、その途中の70年10月4日、静かにこの世を去る。
残された映像を丁寧に整理し、多くの音楽仲間や友人たち、恋人たちの証言をまとめる形でエイミーはジャニスの27年間をたどっていく。ただし、極端ないい方をするなら、これはこの手のドキュメンタリー作品の一般的なスタイルであるわけだが、ジャニスの妹や弟の協力も得た彼女は、残された手紙の朗読を縦糸のようにして物語を紡ぎ出すという新たな手法を確立している。
そのナレーションを担当したのは、エイミーとはほぼ同世代のシンガー・ソングライター、キャット・パワー。ジャニスからも大きな影響を受けているという彼女は、マイクに向かって手紙を読みながら、涙が止まらなくなってしまったことが何度もあったそうだ。彼女の起用と、「ひょっとして本人?」と思ってしまうほどに自然な朗読、そしてもちろん、そこに込められたジャニスの思いは、この作品の最大のポイントといえるだろう。
ところで、ジャニスが亡くなったのは、ハリウッドの現在は「ハイランド・ガーデンズ」という名前で営業をつづけているホテルの105号室だ。この部屋は今でも多くのファンが訪れている。チャイニーズ・シアターの裏手という好立地ながら、いわゆるモーテル・タイプで、料金面も含めて気楽に泊まれる宿だ。(大友博)