明かりが灯る「星のや 軽井沢」
明かりが灯る「星のや 軽井沢」
左から2番目が3代目。自らドイツへ赴いて購入した発電機とともに
左から2番目が3代目。自らドイツへ赴いて購入した発電機とともに
川を取り囲むように離れが配置され、水の流れが印象的。敷地内の小川も実は、エネルギーをつくるシステムの一端を担っている
川を取り囲むように離れが配置され、水の流れが印象的。敷地内の小川も実は、エネルギーをつくるシステムの一端を担っている
「星野リゾート」全体のエネルギー問題を担当する松沢隆志さん
「星野リゾート」全体のエネルギー問題を担当する松沢隆志さん
バックヤードにある「ヒートポンプ」。静かにエネルギーをつくっている
バックヤードにある「ヒートポンプ」。静かにエネルギーをつくっている
テラスで秋を満喫しながらのんびりするのもいい
テラスで秋を満喫しながらのんびりするのもいい

 いまや「星のや 軽井沢」と言えば、日本の“おもてなし”が体験できる宿泊施設として、国内外で評価が高い。浅間山のふもとに広がる同施設の敷地面積は実に約4万平方メートル。今や日本だけでなく海外にも展開している「星野リゾート」だが、1914(大正3)年以降続く会社としての歴史もこの日本を代表する避暑地、軽井沢から始まっている。

 周囲は豊かな森に囲まれ、川が流れる敷地内には、77室の「離れ」が点在する。近代的でありながらも、自然が存分に感じられ、贅沢な気分も味わえる。いわゆる高級リゾートだが、実はエネルギー自給率75%を誇る施設だということをご存じだろうか。

 同社のエネルギー問題を担当する、社長室の松沢隆志さんに話を聞いた。

「『星のや 軽井沢』の前身である『星野温泉』は、創業時から自家水力発電を行ってきました。3代目の星野嘉助は、1926(昭和4)年に昔ながらの水車で電灯をつけることに成功。もともと材木屋だった嘉助は、最新テクノロジーを使って電気を起こしたことが楽しくてしょうがなかったのだと思います。そのうち、楽しいという思いが信念に変わったのではないかと。自らドイツへ行き、発電機を購入し、水力発電所の設計から工事までをおこなったのです。現在でも使っているこの建物は、嘉助が建てたものなんです」

 当時の写真を見ると、3代目の誇らしげな様子がわかる。彼の信念は、現在でも受け継がれており、敷地内2か所の水力発電所で225kWの電力をつくっている。隣接する川の水を引き込み、敷地内の10mの高低差を利用し発電。しかし、宿泊客には全くそれとはわからないようになっている。例えば、棚田のように段々になっているところを水が流れたり、ところどころに池がつくられていたりするが、それらも発電のための用水路や調整池の役割を担っている。心を和ます風景の一部は発電システムの装置でもあるのだ。

 水力発電以外の方法で、エネルギーを自給することはできないか。2005年のリニューアルオープンを前に同施設では、新しいエネルギー資源を探すことにした。

 軽井沢という土地は、夏が冷涼であるだけに、冬の寒さは厳しい。暖房のためのエネルギーはどうしても必要になる。また、休暇にリゾートに繰り出した人たちは、贅沢で快適な一日を過ごしたいと考えるゆえに、ふだんよりもエネルギーを余計に使うことも多い。リゾート施設全体で考えると、それは膨大な量になり、それに伴って二酸化炭素の排出やごみの発生など、環境に負荷を与えてしまう。けれど、化石燃料を使用しなければ、二酸化炭素の排出は抑えられる。

 そこで目が向けられたのは、源泉かけ流しの湯から出る「温泉排熱」と「地中熱」の利用だ。

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